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「キサマァ……所詮は我らいざなぎ流の助けが無ければ、何も出来ぬ家が!!」
蠱毒の呪詛に身体の半分を覆われた誘の姿がある。相手を呪い殺し切れなかった呪詛は術者本人へと還る。蠱毒とは強力であると同時に諸刃の剣でもある。
「あんたは破門されてるんだろ? “我ら”ってのはいざなぎ流の人達に失礼だよ。それに知ってるだろうけど、俺は藤原の家の者じゃないんでね」
誘の言葉には、最早耳を傾けるだけの意味は無い。勾陣が千星空の隣で威嚇するように、誘に舌を突き出す。
「ククク……、最早これまでよ。が、貴様ら兄妹のどちらかの命を道連れにしてくれる!! さしもの主も、手札は切れておろう?」
霊符は使い切った。勾陣を呼べば勝てるが、それでは千星空の守りが無くなる。彼女の式王子は既に皆実体化を解いている。彼女自身の霊力は先程の戦いで枯渇している。初の実戦だからだろうか、彼女自身の疲労も既に限界を迎えているように見えた。立っているのがやっと、といった所で、術の行使等は論外だ。それを言うなら、霧乃も似たようなものだが。
勾陣の鎧はまだ機能しているが、これも絶対ではない。何度も呪詛を受ければ破壊される。
「絶望を味わせてやろうぞ。儂がかつて受けたものと同じ絶望をのう!」
完全に種切れ。だが、霧乃には意志を手放すような弱さは微塵も無かった。
「あなたが妹を失ったのは」と、急に語調を改めた。初めて霧乃の顔に浮かぶ同情。
「恐らく、誰のせいでもない。あなた自身が諦めたから、なのでは?」
ハッ? と、明らかに小馬鹿にしたように誘の顔が歪む。
「成程、先程の蠱毒といい、仕掛けの瘴気といい、かつては、さぞや力ある陰陽師だったんでしょう、あなたは。――故に他人をあてにする事を考えない」
霧乃が取りだしたのは一枚の幣だった。矢の形に切られたそれを上へと放り投げる。それは花火のように撃ち上がり、天井を突き抜け、階上の窓を破って空へと上がる。ポッと明るくも何の力も無い、ただの光が空を照らす。
静まり返る工場内。直後、巨大な斬撃が壁を突き破った。
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