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「執事したるこの太刀は、高天原より挿す栄光に輝き、煌めき、閃く――先ず、斬りたるは、化生の群れ、百鬼夜行、有象無象の物の怪共也、一切衆生の罪穢れ、萬物の病災をも立所に祓い清める、一騎当千、所向無敵、一切修祓――害為す者どもよ平伏せよ、怨敵退散、所願成就!!」
“神憑りの斬撃”が蠱毒を刹那の内に叩き斬る。勢いのまま通り過ぎた朝霞が制動を掛けて止まる。太刀と彼女自身から昇る金色の霊気が神々しく輝いていた。
「無事か……って!? なんで、千星空ねーちゃんがここに!?」
蠱毒を斬ったところまでは格好良かったのだが、神憑りの巫女はたちまちの内に、いつもの騒がしい少女に戻っていた。立ち昇っていた霊気も消え、彼女の髪は黒い冷たさを取り戻した。
「……いえ、お兄様が危険な目に遭うという予感がなんとなしに、しましたもので」
今更のように呟く。あれ程の事があったが、きっかけだけは、やっぱり彼女らしい。霧乃は呆れるやら、可笑しいやら、どちらにせよ腹を抱えて笑いたい気持ちになった。だが、まだ、終わってはいない。
「うぅあああ……」
三人と式神は誘の呻き声に、我に返った。誘が震える身体で、四つん這いになって蹲っていた。蠱毒に侵されていた身体は呪詛に蝕まれつつも、五体満足だった。蠱毒に呑まれて間もなかったおかげか、それとも彼自身の霊的なタフさのおかげか、或いは執念故にか。
まだ、誘は生きていた。
「……何故、殺さない!!」
ぎろりと飛び出しそうになる程に目玉を見開き、朝霞を睨む。「えっ」と朝霞はそんな質問をした誘を見返した。何、言ってんのこいつと、朝霞は己の誇りを穢されたかのような子どもっぽい、だが純粋な怒りを返した。
「私が滅するのは物の怪の類だけ。人を殺すのは……殺し屋の仕事だろ!」
「或いは“呪術師”の仕事だな」と勾陣が付け足す。
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