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霊術と、陰陽師が呼称して言うのはなぜか。そこには呪術も含まれている。確かに。が、人の身を物の怪から護る術も含まれている。陰陽師の本来の仕事は凶災を祓う、或いはそれから人を護る事だ。
それがいつからか、こうして人間同士の呪詛を掛ける、返すの戦いにも使われるようになった。それが如何に強い術であっても、所詮使い道を決めるのは人間だ。
傷つけるも、護るも、人間次第。
呪術、護身術二つを併せての霊術。
どちらも本来は、人を守る為の霊術だった。
誘はそんな、朝霞のような――と言えば彼女は怒るだろうが――子どもにも分かる理屈を忘れていた。
「で、終わったのかい?」
すたすたと、朝霞が空けた大穴を通って歩いてきたのは、長倉だった。「てめぇ! 安全なとこで様子見して、終わってから出てくんなよ!!」という朝霞の文句を華麗に聞き流し、誘の所まで近づく。ぐるりと誘の腕を縄で縛りつける。そんな気力はもう無いだろうが、その縄には霊気を遮断する機能がある。今度こそ本当に、彼の抵抗もここまでだった。
――一体何に抵抗していたのかもわかんないけど。
「あんたの身柄を拘束させて貰うぜ。ま、せいぜい現陰陽寮の連中に甚振られてくれや」
生気の無い誘は、幽霊のように立ち上がり、長倉に従う。このまま、現陰陽寮まで連行されるのだろう。恐らく、二度と会う事もあるまい。
「ねぇ、誘さん」と、霧乃はその背に問いかけた。自重しろと、抗議の目を向ける長倉に構わず霧乃は聞いておきたかったことを聞く。
「なんで、ここを拠点にしたんだい?」
陰陽師達から隠れるのには、もってこいだったのだろうと思う。ここは一見して、霊的な存在を感じられない。だが、それだけだろうかとも思う。
「フン、お前さんがそれを知らなんだとは」と、枯れた声で誘は笑った。嘲笑と言うにはあまりにも力に乏しい。
「ここには昔、寺があった。藤原家の者といざなぎ流の太夫との交流場所ぞ。廃仏毀釈の流れで潰されたがの。儂はここでいざなぎ流の術士が使っていた蠱毒の壺を見付けたのよ。そこにあったしゃれこうべを見てはたと思いついたわけよ」
ゾッとするような笑み、髑髏のように死んだ笑顔を浮かべ誘は言う。
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