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「……ひと ふた み よ いつ む なな や ここの たり」
ぴたりと朝霞が立ち止まる。鈴の音が頭に直接響く。ただ、それだけだった。こちらに何らかの攻撃を加えたわけでは無い。目に見える範囲で認知出来る次元に影響を及ぼすような事では無かった。朝霞はぐっと息を呑んだ。
「こいつ、何を“降ろそう”としてやがる!?」
神楽鈴の役割は霊を降ろす事だ。天界、すなわち陽の界でも陰の界でもない、ここよりも上次元の世界へとアクセスし、呼び出す。呼び出された霊が真っ先に憑こうとするのは巫女だ。
「ぐっ、がぁああ……!!」
朝霞が血反吐を吐いて倒れる。何の準備も無いまま、捧げものをせぬまま、霊を迎える事は出来ない。降りてきたのが何の霊かは分からないが、位の高いものであれば、ある程、要求される対価は大きくなる。吐いた血がすっと浮かび上がり消える。
早乙女隊の隊士の一人が慌てて駆け寄った。結界に歪みが生まれる。長倉はどうすべきか悩んだ末、結界の維持を放棄。懐から独鈷杵を二本抜き放ち、両手にトンファーの如く対に構える。集団の戦いでは、統一性を重視して使用を控えていた霊具だが、この局面では仕方がない。
「ふるべ ゆらゆらと――」
ぐっと独鈷杵の柄に力を込める。紫電が両側の刃を突き抜ける。だが、それが威力を発揮する事は無かった。
「だから、五月蠅っせぇっての」
ダンっと火龍が足の裏を踏み鳴らした。どさっと朝霞が床に倒れる。パッと宙を舞い、鈴の式神は包囲を潜り抜けて外へと飛び出して行く。長倉は毒づいたが、隊長の容態の方が今は重要だ。朝霞の傍に膝をつき、その体を起こそうと手を出し、
「何してんだよ……!!」
無情にも引っ張叩かれた。まだ、悪態を吐くだけの元気はあるらしい。内心でホッとしつつも、長倉は厳しい顔で窘める。
「手当が要るだろうよ」
「要らねぇよ。それより、さっきのあの野郎……舐めた真似しやがって!!」
「……どう見ても少女だが」
言った瞬間、鞘で思いっきりぶん殴られる。身体の心配して損したなぁと長倉は腫れ上がった頬を擦りつつ、溜息を吐く。
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