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「それより……お兄様は、どうやってあの誘という人を騙したのです?」
「ん? ……あぁ、どう騙そうかでは悩んだんだけどね。本格的に騙そうとしたのは、千星空さんが電話掛けてきた時だな。あいつが放った幣の霊符は、負の感情に反応するように出来ていたから、負の感情をぶつけてみたんだ。そこから先は芝居だよ、芝居。あいつが油断するのを待ってから捕えるつもりだったんだけどさ」
そこに運悪く、千星空が割り込んでしまったので、計画が狂ってしまった。言葉には出さなかったが、千星空はその事を理解しているようだった。恥じ入るように俯いた。
「では、お兄様の身体が、その……お兄様自身の物じゃないというのは?」
「あぁ、あれね……」
霧乃の瞳に一瞬、翳りが生じる。この妹には嘘は吐けない。何もかもを見通してしまうだろう。
「でっちあげだよ。あいつが、あんな簡単に信じてしまうのは予想外だったけど」
「……千星空も信じそうになりました。お兄様は“元の”家についてあんまり話そうとしないから……、そんな秘密があるのかと」
じっと、千星空は兄の誘に対する嘲笑を見つめている。霧乃が困った顔で視線を逸らすと、千星空も視線を落とした。自分の拳に、じっと握りしめていた錫杖を。
「千星空は修行不足でした。お兄様の嘘を見抜けず、霊術の戦いでは足を引っ張ってしまい……」
「初の実戦であれだけ戦えれば十分さ……てか、相手が悪すぎたんだ」
慰めは虚しく、力が伴っていない。そんな気がする。こういう時、年上の海馬等は上手い慰め方が出来るのだが、自分にはとてもそんな事は出来ない。何を言っても白々しい気がする。
――やってる事、全部が嘘みたいに感じる。
故に空しい。自分には彼女の兄として立つ程の資格は無い。
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