霧乃

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――あぁ、もやもやしてた理由はこれか。  誘を騙すのに役立った負の気。あの男に見せたのは全て演技だったが、その中に存在する負の気は本物だった。  嘘を成り立たせるには、そこに真実が無くてはならない。だが、その実際に存在する心が霧乃本人にも分かっていなかった。何故、こんなに引っ掛かりを覚えるのかが。 「で、でも、次は大丈夫ですから!! 今度、戦う時は失敗しません!!」  どこまでも正直な千星空を前に、霧乃はどう接していいのかが、分からなくなる。 「なぁ、千星空」 「あ……、はい?」  意気込んで両手を握りしめる千星空は、態度を改めた霧乃に目を丸くした。 「現陰陽寮からの命ってなんだったんだい?」  いやに長く感じる沈黙が流れた。千星空はゆっくりと両手を落とし、肩を震わせた。 「……お兄様は、栃煌市に引っ越さないといけないんです」 「何のために……?」  千星空の瞳には涙すら浮かんでいた。 「それは……、星が動いたのです。栃煌市における因果が変わろうとしている」 「陰陽寮がわざわざ、ご指名くださる程だ。何か余程厄介な事が起ころうとしているわけだね」  千星空は肯定も否定もしなかった。星占い程、複雑で曖昧な霊術は無い。だが、千星空もまた若いながらも、星占いの分野では指折りの術者だ。その占事が正しい事が分かっているのだろう。 「てか、栃煌市って言ったら、あの栃煌市だよね? 春日家の神社があるところ。これはいよいよきな臭い……もしかしたら、ここで起きてる霊脈騒ぎもその未来に起きる何かの、前兆かもしれないね――で、そこで俺は何をすればいいわけ?」 「ある少年を監視しろと」 ――少年?    意外な言葉に霧乃は眉を寄せた。 「その少年は過去に、春日月さんと、陰陽少女と関わりがあったとかで。詳しくは海馬さんに聞いて下さい」 「ふーん」と、霧乃は半信半疑のまま頷いた。だが、千星空はそれどころではないと言うように、義兄に詰め寄った。
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