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「千星空は、別れたくありません……」
「ん……、そんなんじゃ義父さんと義母さんが困っちゃうんじゃないかな?」
両親は自身に大した力が無い分、娘に期待を掛けている。故に厳しい。千星空も両親を前には、いつもしっかり者であるところを見せよう見せようとしてきた。霧乃に対しても今までそう振舞って来ていた筈なのに。
「いいんです!! お父様、お母様の前では言いませんもの!! 今の内に言いたい事全部ぶちめけてやるのです!!」
キッと霧乃を睨み付ける。抱擁しようとしたのを阻止されたのを、根に持っているらしい。だけど、霧乃には分からなかった。何故、そこまで自分にこだわるのかが。
「お義兄様は、馬鹿にするかもしれませんけど……」と恨めし気に前置きしつつ、告げる。
「私はお兄様の前だと素直になれる気がするのです」
――俺が相手だと?
そんな馬鹿なと、霧乃は確かにそう思った。不覚にも驚きが顔に出る。千星空はツンとそっぽを向いた。
「俺は嘘吐きなんだけど、それでも?」
「お義兄様は嘘吐きなんかじゃありませんよ。卑怯な人ですけど」否定しつつも、容赦がない。好意を無下にし続けた罰だろうかと、霧乃は今までの事を振り返る。何も今日の事だけじゃない。霧乃は今まで、千星空がさり気なく、或いは放胆にぶつけてくる好意を躱し続けてきた。
「そう、だな。俺は狡い奴だ。そうなるように修行し続けてきたんだ」
“元の家”での修行は、いつも相手をどう効率的に騙すか。そればっかりを学んできた。だから、即興で演技するのにも慣れているし、騙し合いでは同年代では右に出る者はいないだろうという位の自負もある。
だが、同時に何が正直な気持ちなのかも、分からなくなっていた。それも事実だ。
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