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†††
――蠱毒の怪、そう呼称された事件から三日が経過した。
藤原邸の門の前で、兄妹は別れを告げようとしていた。館の荘厳さに比べると実に質素なものだったが、霧乃は満足だった。
「お気を付けて、お兄様」
「あぁ、千星空さんも元気でね。偶にメール送るから」
「私は毎日送ります」
「ハハハ……、それはどうも」
出来れば勘弁願いたいところだ。栃煌市で関わる事になるだろう少年にからかわれないといいが……、それに、栃煌市ではそれとは別に接触しなければならない男がいる。この男に関してはまだ現陰陽寮でも調査中であり、一部の幹部の中でだけ話し合われている事だが……厄介なトラブルを起こしそうな気配がある。
「それじゃあ、ね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
挨拶は実に簡素だったが、それが逆に霧乃にとっては心地よかった。千星空はいつまでも、手を振り続け霧乃はその温かい視線を受けながら京都駅へと向かう。
その道中、ふと勾陣が言った。
「随分と素直になったもんだな。お前も。けどよ、肝心な所で、お前さんはまだ一つ嘘を吐いている――良いのか?」
実体化はされていないのに、彼がどれ程苦々しく笑っているかが、手に取るように分かる。霧乃は気負わなかった。
「やだなぁ、勾陣。あの千星空が見抜いていないわけないだろ?」と、返した。
「薄々、勘付いてはいるだろうよ。いつものように『なんとなく』とな」
そして、その『なんとなく』は常に的中する。
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