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「だが、お前を信じてもいる。何故だ? あいつは別に他言する程、口は軽くないだろう?」
兄と妹の秘密だ等と言ったら多分、死んでも話さないだろう。それは分かっている。だが、これはそういう問題ではないのだ。
「卑怯だけど、嘘吐きじゃない……千星空はそう言ってた。俺の事を信じているから、なんだろうね」
「だったら……」と勾陣は焦れて、首から上を実体化させる。珍しい事もあるものだ。普段はどれだけ霧乃が人に嘘を吐こうとも、騙そうとも、軽口こそ叩けど非難した事は無かった。
だが、それを言うなら霧乃もいつもの霧乃とは少し違っていた。
「言ってしまったら……あの家に戻らなくても、もっと言えば、このまま俺という存在が消えても――仕方ないの一言で済んでしまいそうなきがしてさ――いや、千星空は納得しないってのは分かってる。俺は自分で自分をそう納得させてしまいそうだなって」
勾陣が何か言いかけたが、結局黙り実体化を解く。
「……成程、お前らしい捻くれた考えだ」
いつもよりも幾分か憎まれ口が強い。だが、霧乃は暖簾のようだ。いくら何を言われようとも、手応えが無い。疲れて諦めたか、勾陣は話題を変えた。
「しかし、良かったのか? 高田王子を義妹殿にあげて。お前さんの戦力になるんなら、連れても良かったろうに」
「俺の式神になんかなったら、多分疲れるぜ。お前位だよ。本来の仕事をほっぽり出してまでついて来てくれるのは」
本来なら、勾陣は京都の守りについていなければならない。元々、この金色の蛇は霧乃自身のものではない。ある伝説の陰陽師が使っていた式神。それを与えられていたに過ぎない。霧乃の式神であることには変わりないが、式神である勾陣自身にも主を選ぶ権利があった。
「物好きな奴しか寄らない、ね。それじゃこれから先の新生活が思いやられるぜ」
「……ま、せいぜい、頑張るよ。“友達”とやらにちゃんとなれるように、ね」
霧乃は遠くの空を眺め、千星空と話した内容を思い出していた。あの後――千星空が気絶したあと――霧乃は任務の内容について、陰陽師の先輩である海馬から聞かされた。
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