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栃煌神社の境内。ミズナの大木が気持ちの良い風を運び、春の陽気に玉砂利が輝いていた。本殿は一番奥、その中に神体――鎮宅霊符神が祀られている。
仏教では妙見菩薩、神道では天御中主神と同一とされている。宅地や家屋を護る霊符が神格化したもので、その元は西獄真人であったとも言われる。西獄真人は中国における東の泰山に対する西の崋山に居る神のことで、大地の悪霊を鎮めるとされており、道教と深い関係がある。
道教に強く影響を受けた陰陽の道。それを歩む者が建てた神社――、成程確かにと思う者も多いだろう。
それよりも手前、社殿は神事の時や見学者の為に解放される。その社殿の中、一枚の和紙を前に、悪戦苦闘している少年が一人。
「が、がんばって、一真!」
それを応援する少女一人。春日月――この神社の神主の娘であり、陰陽師でもある。月の神の加護を受けるとされる“その道”では陰陽少女という名もある。
その幼馴染である沖一真はその手に握る筆に全身全霊を込める。彼はつい一か月前までは陰陽師とは何の縁もない高校生だった。
――それが、こうして霊符製造の修行までしてるってのは
人生何があるか分からないという一言で済ましてしまっていいものか。数時間前から食事は避け沐浴で身を清め祭礼を行い瞑想し、そして今正に霊符に筆を降ろそうとしている。
全身全霊込めて一気に書き上げる事、それが碧から受けたアドバイスだった。
鬼 惡 厭
「こらぁああああああああああああああああ!!」
ビクッと一真は振り返った。書き上げた後で良かったと思う。外で碧が舞香を追いかけまわしていた。
「捕えろ、おん・きりきり・おん・きりうん・きゃくうん!」
びたっと舞香が床に倒れ伏す。ぐぐぐと舞香はそれでも這って逃げようとするが、碧はそれを許さない。
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