彩弓

14/61
前へ
/162ページ
次へ
「なぜ、御供え物の菓子を食べちゃったの!」 「ぐ、お、おなかすいてたので……」 「お前は小学生か! いや、小学生でもそんなことしない! 見なさい、彩弓を」  その彩弓はじーっと取っ組み合ってる姉妹を見ている。 「これが姉妹……!」 「ぐっ、彩弓、そうじゃない。姉妹というのはもっと美しいもぐぎゃああ」 「だったら、つまみ食いなんかしない!」  得体の知れない技が決まって、舞香はぐたっと力尽きた。あれはもう、身体の構造を把握しきった者でなければ出来ない――どこを突けば効率的に痛みを与える事が出来るか分かっている者の手口だった。 「か、一真!! 垂れてる!!」 「へ? おわああああ!?」  全身全霊込めて書き上げた符に筆から垂れた墨が零れていた。字が真っ黒に塗りつぶされていき、記念すべき一枚は おじゃんになった。気落ちする一真の後ろで月はあわあわと慌てふためき、なんとか励まそうと拳を握った。 「だ、大丈夫。まだ霊符用の和紙なら沢山あるから!!」 「つか、これ作っても実戦で効かなきゃ意味ないんだよなぁ……」 「き、効くよ! 効かなかったら、私が霊力込めて効くようにするし!!」 「それ、作った意味ないだろ……」  霊符――それは術に使う為の霊具だ。映画やドラマ等で陰陽師が使うようなあの符の事だ。予め霊気を込めておくことで瞬時に術を展開出来る道具であり、その最大の利点は術を使う際に霊気を全部或いはある程度を負担して貰える事だろう。  一真は基本的に物の怪等と戦う時は、相棒である白陽天ノ光破敵之剣こと天に頼っている。この霊具は春日家に伝わってきたある陰陽師の手で製造された物で、その威力は破格だ。しかし、破壊力が高く大概の荒事はこれでどうにかなってしまうが故に、一真自身が自分の実力を錯覚してしまう原因にもなっていた。  一真は元は単なる一高校生だった。身固めが使えるだけでも、超人的なレベルである。だが、それも破敵之剣から霊力を授かり、術の制御も大雑把であり、ほとんどを破敵之剣が行っている。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加