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――こいつと一緒の世界にいるには、その先に達しなきゃならない
陰陽少女、月の居る世界は優しくは出来ていない。そこで生きると、彼女と共に歩むと決めた一真は沙夜や影女そして叔父との戦い以降、それを実感しつつある。
「ま、文句言ってても仕方ないか……」
和紙を再び取り出す。そして、今度は先程よりも更に精神を研ぎ澄まし、一筆に集中する。
霊符――鬼惡厭の三文字
一気に淀みなく書き上げることができた。社殿の中は暗く――霊符を書き上げる場は霊力の流れ、光をよく視る為に暗い所の方が良いとされる――見えづらいが、普段ノートに書いている頼りない字と比べると、線はしっかりと、とめ、はね、はらいもきちんとつけられている。我ながら良い出来だと感心するが、問題はこの先だ。
月がそれを受け取る。肝心なのは字の達筆さではない。霊力がきちんと込められているか否か、だった。
すっと月の細く白い指が文字を辿る。微かに光が散った……ような気がしたが、果たして。
「……うん」
月は微笑んだ。
「初めてにしては上出来」
よっしゃとガッツポーズを取る一真の前で、月は肩を落とした。
「でも、これじゃまだ実戦には使えない」
「……え」
月と同じ世界で生きていくにはまだまだ、足りないようだった。
墨を零した後以上の沈みに襲われる一真に、月はそれでも明るく元気づける。
「大丈夫!! まだ、何十枚もあるから!!」
「お、おう。そ、そうだよな!! よし、次に期待して!!」
結局その後一枚として、まともに実戦で使える符は出来ず、月は一真を励ますのに四苦八苦する事となる。
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