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「だー、なんだよ、何がいけなかったんだ……」
彩弓が腰かけている横に身を投げ出し一真が呻いた。その目の前で、月がそれでも希望を失わない瞳で必死に訴えかける。
「だ、大丈夫! 感覚掴めば大丈夫!!」
俳句かよと言う一真のツッコミを、彩弓は理解出来なかったが、ともかくこの自分にとってはお兄ちゃんのような存在である少年が、今すごく苦労しているということは分かった。
「大体、分かんないんだよ……、感覚つってもなぁ」
「う……、そ、そうだね」
月もまた頭を抱えて悩んだ。感覚が掴めない――それは、今まで感じた事のないものだからなんだろうかと、彩弓なりにその苦労の実態を考えようとする。
――私も
ふと、彩弓は思う。
――わかんない。姉妹ってどうすれば感じられるの?
決して、碧や舞香の前では言い出せない事だが、彩弓はそれでも考えてしまう。千年も前の陰陽師中原常社、そしてその魂を利用した影夜。彼らとの戦いから早くも一週間が経とうとしていた。
魂呼ばいの怪異――中原常社と彼の味方に付いた巫女三人の手で彩弓は拉致された。常社達が彩弓を攫った理由は“世界にとっての脅威”になるからというものだったが、それは大きな嘘だった。彩弓や彼女を助けようとするものに対する嘘ではない。常社達自身を騙す為の嘘。
彩弓は単なる餌だった。春日月、陰陽少女という存在を釣り上げる為の。怪異の真の黒幕は常社ではなく、影夜という常社の子孫、中原家の若き当主である陰陽師であり、常社は彼の持つ執着心を利用して此の世に呼び戻された存在に過ぎなかった。
影夜はこちらに来るように挑発した。陰陽師であれば怪異の元は見逃せない。その心理を突いて張った罠。月と一真はあえてそこに飛び込み、辛うじて影夜を倒す事に成功した。
彼に散々利用されてきた彩弓は解放された。影夜が自分に投げかけた言葉については未だに覚えている。
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