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「うるるる、ありがとう、彩弓。味方になってくれるのは彩弓だけだよぉ……」
泣いている振りだった。彩弓はわけが分からないまま、その手を振りほどく。
「な、どういうことですか、二人共! 彩弓を、彩弓をからかってるの!?」
彩弓は本気で姉妹の仲を心配した。だが、姉妹はお互いけろりとしたものだ。気を張ってたのは彩弓だけのようだった。それがなぜだか無性に腹が立つ。
「も、もう二人共知らないから!」
涙目で顔を逸らす彩弓に碧と舞香はばつの悪そうな顔で、
「え、えっとね彩弓? 私達が言うのもなんなんだけどね」
「さっきのは、その……別に大したことじゃないっていうか、日常茶飯事って言うか……」
「お供え物をつまみ食いするのはそんなに日常茶飯事起きることなんですかー?」
「うぐ!? なんか、一転してぐさりと来る言葉を……!」
彩弓は、元々人の心に入り込む霊術を知らず知らずの内に使う事が出来た。相手が一番触れてほしくない点をうっかり話してしまう事も多かったのだが、今彩弓は自分の意志で舞香の傷口を抉っていた。
「そうね、罰当たりよね、ほんと」
「ま、まだ供えてはいなかったわけだし?」
「言い訳ですかー、見苦しー」
関節を決められていた時以上に顔を青くして項垂れる舞香。今の彩弓はそれを見ても何の罪悪感も湧かなかった。
「なんだ、なんだ? 喧嘩か?」
宿坊の方から出て来たのは、碧や舞香の父であり、もうすぐ彩弓の養父にもなる男、吉備真二だった。我体の良い身体つきに口の周りに髭を蓄えた男で、今は藍色の狩衣を着込んでいる。
その後ろには妻の氷雨の姿もあった。思わず見縊ってしまいそうになる程、柔和な瞳。だが、その奥に宿る光からは芯のある気骨の強さが見て取れた。こちらは巫女装束を着こんでいる。
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