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「いや、ちょっと碧と舞香がふざけてたのを、彩弓が止めたんです。な?」
やり取りを見守っていた一真がさらりと口にした。同意を求められた彩弓は渋い顔になる。妙にはぐらかされたような気がする。皆して彩弓の気持ち等、ないがしろのように扱うつもりだろうか。
――彩弓が悪いみたいに
そんな風に思う自分を自分で驚く。今まで、こんな気持ちになった事は無かった。ただ、新しい家族に馴染もうと、嫌われまいと笑顔を作ってきた筈なのに。自分はこの関係を壊したいのだろうか?
「はい……そうです」
彩弓はしゅんとなって首肯した。輪っかに結んだ髪が萎れた花のように寂しく揺れる。
「んー」と真二は大体、何があったのかを把握したらしい。そして、短く笑った。
「ハハハハ、気にするな。直、慣れるよ。姉妹の喧嘩なんざ犬も食わぬと分かるようになる」
「それ、夫婦……」ぽつりと指摘する月をスルーして、真二は彩弓の頭を撫でた。
「んじゃ、ちょっと出かけてくる。留守の間、二人の喧嘩がエスカレートしないよう見張ってくれるか?」冗談めかして言われ、彩弓は不貞腐れた。だが、それよりも気になる事があった。
「彩弓の前の家族とお話ししに行くんですか? だったら、私も行った方がいいんじゃないですか?」
「んー、まぁ、なぁ。普通だったらそうなんだが、奴ら……じゃない、彼らも君とは血は繋がってないらしいしなぁ」
彩弓の身柄は非公式にではあるが、現陰陽寮が見る事になっている。表向きは吉備家の養女となる事に決定していたのだが。
「でも、それだけなら今までの家族も殆どそうでしたよ?」
「まぁなぁ、そうだな。よくまぁ、地域の教育関係の組織が文句言わなかったと思う位、盥回しにされてきたなと思う。そのおかげでというべきか神社関係の者に預けられるっていう筋書も、あまり小細工無しに進行出来そうではあるんだが」
ふと声を落とし、真二は驚くべき事実を告げた。
「実はな、その君の前の家族が親権を譲ろうとしないんだよ」
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