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「心配するな。連中が霊術者であるという情報は無い。単なる人間なら遅れは取らん。それに、氷雨にもこっそりとついてきてもらうつもりだ」
だから、心配するなと言う父に、娘二人はこくりと頷いた。彩弓はそれにまたしても驚きを感じてしまう。行かせたくないのであれば、是が非でも止めるべきなのではないか?
「そういうこと。じゃ、彩弓ちゃん待っててね。三人仲良く!」
氷雨が彩弓の頭を軽く撫で、神社を後にする真二を追っていく。彩弓は撫でられた頭に手を当て、んぅ……と唸る。
「家族とは複雑怪奇」
何しろ、今までが特殊過ぎる環境だった。苗字の意味すらもきちんとは分かっていなかったような少女である。だが、それでもこうして思い悩むのは彼女の心に変化が出たからなのではあるが。本人はそうとは中々気づかないものだ。
悶々と悩む彩弓の耳から突然音が消えた。
――ふるべ
鈴の音がりんと鳴る。
――ゆらゆらと
自分を呼んでいる。
――ふるべ
主である自分を……。
「彩弓?」
ふと月の手が肩に触れ、彩弓は正気に戻った。夢から覚めたように現実の景色が飛び込んでくる。
――今の……
何がなんだか分からないという感覚は無かった。彩弓は震えた。この感覚を自分は知っている。つい三日前まで感じていたものと同じ。まさか、あの少年――影夜がここにやってくるということなのか。
ハッと彩弓は顔を上げた。月は怪訝にその顔を見、それから耳を澄ました。
「鈴の音?」
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