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誤解を解こうとして、彩弓は止めた。皮肉に聞こえるのであれば、それも仕方あるまい。
「私には中原家の方々の霊気を辿る事が出来る力が与えられているのですが、その、あの方の影夜様の霊気を追う事が今は出来ません。どこへかお隠れになっているのか、もしかしたらお亡くなりになったかも……」
――死んだんだ
瞬時に彩弓は鈴彦姫が言おうとして言えない或いは信じていない残酷な真実を見つけてしまった。どこか冷え込んだ気持ちで彩弓はその事実を受け止める。
「で、あなたは何故ここに来たの?」
「そ、それは勿論、貴女様が、中原家の当主たるお方だからです」
「とーしゅ? 私が? ……ところで、とーしゅって何? 野球のピッチャーの事?」
えっと驚く鈴彦姫に、笑い出す一同。皆嫌いだと密かに思いつつ、彩弓は唯一笑っていない月に視線を向ける。
「つまり、今の彩弓が中原家で一番エライ人って事」
「そ、そうなんだ……」実感が湧かないなんてものではない。そもそも、中原家の一員だという事実さえ、ピンとはきていないのに。
「で、でも、私のその……一番はじめのお父さんお母さんも、みょーじが中原……だと思ったけど」
「い、いえ。あの方達も確かに中原ではありますけども……無礼を承知で申しますなら、貴女様程、力も強くありませんでしたし……お、お気に障ったら申し訳ありません」
気に障ったわけではない。実の親と触れあった時間は短かった。彩弓の記憶にも残っていない程遠い過去だ。いや、そもそも両親は今生きているのかどうかさえ分からない。
――あぁ、そうか。私が最後の生き残りなんだ
そう思うと、不思議な気持ちだ。
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