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鈴の式神が自分の元に来たのは、他にはもう中原の家の者がいないからに相違ない。
「じゃあ、もう一つ質問。鈴ちゃんはここに来て何がしたいの?」
「それは……」と鈴彦姫は口ごもった。言い出しにくいからではない。何も考えてはいなかったのだ。
「私、ここのお家の子になるの」と畳み掛けるように彩弓は告げた。一瞬、鈴彦姫の目つきが変わる。月、日向、一真、碧、舞香と順に顔を注意深く量るように目を通し、それから最後に彩弓を見た。
「構いませぬ。私をここに置いてください。私は、あなたにお仕え致しとうございます」
その声は必死だった。彩弓を心配する気持ちはある。だが、それだけではない。彼女は一人ぼっちだ。主を失い、こうして……。
「ひとつ……聞かせて」彩弓には感情を抑えて話す事など出来ない。不安と恐怖の混じった震えるような声で訊ねる。
「あなたは、影夜、あの人の事をどう思っているの?」
一真が「……彩弓」と咎めるように前に出るが、それを月が制する。鈴彦姫は目を伏せた。白銀の髪が顔を覆い表情を窺う事は出来ない。
「私のかつての主は中原常社様にございました」
一同は驚き、息を呑んだ。彩弓は辛抱強く話を待つ。
「影夜様は常社様に会わせてやろうと仰いました。そして、確かに常社様は呼び戻されました……ですが、あれは、呼び戻されたあれは常社様とお呼びにするにはあまりにも変わり果てた存在でございました!!」
ポタポタと石畳の上に涙が零れ落ちる。主の前では決して見せなかったであろう、或いは見せる事を許されなかったであろう涙を。
「常社様の復活には私も手を貸しました。あのようなお姿にしてしまったのは私の……!」
彩弓はすっと鈴彦姫の目の前まで歩み寄った。さっきとは一転して、優しい表情で訊ねる。
「そんなに昔から、中原の人達と一緒に過ごしてきたの?」
「はい、そうでございます……」
鈴彦姫にとって中原家は自分自身の存在そのもの。生きる証のようなものだろう。そして、彼女がどう思っているかは分からないが、家族も同然の存在だったに違いない。
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