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「いいよ。ここにいても。……いい、よね?」
彩弓は鈴彦姫の頭をポンと優しく撫で、それから振り返って月達に聞いた。今までの話を皆全て聞いている。鈴彦姫に同情もしている筈だった。
「お父さん、お母さんに聞いてみないと何とも言えないけどなー」と舞香は言いつつ姉とちらっと顔を見合わせる。その意味を瞬時に悟ることが出来たのはやはり、姉妹だからなのだろうか。
「そうね……私達からもお願いするだけはしてあげる。どう、月は?」
同意を求められた月の反応は鈍かった。「え?」と月は首を傾げる。碧はじれったそうな様子で繰り返した。
「だから、鈴ちゃんをここに置いてもいいかどうかって話」
「え、う、うん。お父様とお母様には私からも言ってあげる。碧と舞香からも言ってあげて」
「あー……いや、うん。そうするよ」
沈黙する碧に代わって舞香が応えた。一真が不審そうに月の顔を覗きこむ。
「どうした? 何か気になる事があるのか? 大丈夫だろ、こいつは」
「え、うん、そうじゃないけど」顔を赤くして顔を逸らす月。彩弓にはそれが鈴彦姫が危険かどうかで悩んでいるようには見えなかった。
鈴彦姫が語った事について考えているのだろうと思う。鈴彦姫の方もさっきからちらちらと、月の方を見ている。どこかで二人は出会った事でもあるのだろうか。
「ねー、鈴ちゃん」と、彩弓は話しかける。
「はは、なんでございましょうか!?」
「苦しゅうない」
畏まる鈴彦姫に、ふざけて鷹揚に手を振る彩弓。これから言う事は鈴彦姫にとっては彩弓から初めて受ける命なのだろう。だが、それが今まで仕えた誰もしなかったような命であるとは夢にも思っていないに違いない。
「ここに居る代わりに、私に教えて欲しい事があるの」
「私めに分かる事でしたら!」
――それじゃあ
「家族って何?」
その時の鈴彦姫の顔を、彩弓は一生忘れなかった事だろう。難解のなぞなぞを投げかけられた勇者もかくやといった苦しい顔が浮かんでいた。
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