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「長倉さん……」
部下の一人が困り果てたというように、年配の男に縋った。「ホントなら寝てるところ」であるのは、何もこのお姫様一人ではない。実質、この隊を仕切っている長倉は内心呆れつつも、顔にはまるで出さなかった。
「オイラ達、早乙女隊が……、というよりも、お前さんが呼び出されたのには、それなりに意味があるんだよ。そんくらいは、わかってるだろ?」
「なめんなよ、そんくらい一々、言われなくても分かってるよ」
露骨に嫌そうな顔をしながら、朝霞は鷹揚に手を振った。
そう、朝霞の隊が呼び出されたのは、何も動ける隊が彼女らだけだったからという事だけではない。つい数時間前に、この場で行われた戦い。怪異を引き起こした主犯たる男、中原影夜は様々な“霊”を呼び起こした。中には古代に滅びた山の“神霊”等、洒落にならないクラスの物も含まれていた。幸いにして、陰陽少女らの手で鎮められたが、中原邸にその手の霊具なりが残されている筈だった。
朝霞は霊特に神霊――御霊との対話を専門とした生粋の巫女である。その態度は不熱心――ある意味年相応の態度だが――に見えて、その瞳だけは油断なく、不審なものは何一つ見逃すまいと気を配っている。
だが、彼是そうすること既に二時間が経過している。一階をまず調べ、二階、三階も調べた。いずれも何も無かった為、再び一階を調べているところだった。
やはり戦いの隙をついたのか、それとも戦いが起こる前に運び出されていたのか、館にはその手の物は残されていない。
地下では同じく“流鏑馬”の隊が、捜索、霊界へと繋がると言われている“井戸”を封じに掛かっている。それが終わり、こちらで何の収穫も無ければ終わりだ。朝霞達は帰れる。だが、手を抜いて見落とし等があれば、後々取り返しのつかない事態を引き起こす事にも繋がる。
だからこそ、念には念を入れて捜査しているのだが、見つかったものといえば、破壊された人形、霊術戦の痕跡のみだ。
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