彩弓

5/61
前へ
/162ページ
次へ
 朝霞はいつしか、霊具探しではなく、ここでどんな戦いが起きたかについて思考を廻らし始めていた。ここで戦ったのは、曽我海馬と藤原霧乃の二人だと聞いている。四神の一角白虎に、勾陣の使い手の藤原霧乃。この二人が本気で戦えば、この館ごと倒壊させることも出来た筈だ――だとしても、霊術で破壊された物は大抵修復されるが――。だが、そうはせず対象のみを的確に破壊した。  単純に範囲が広く火力の大きい術は幾らでもある。だが、霊術において重要なのは状況に合わせた戦い方が出来るか否かだ。 多勢の中の一人に対してピンポイントに術を掛ける事もあれば、一人だけを残して多勢を潰す事もある。それには、高い霊力のみならず、それを制御出来るだけの技や感覚が必須となってくる。  特に、朝霞は霧乃がどう戦ったのかが気になった。海馬の方はもう飽きる程横から見させて貰っている。レベルで言えば、霧乃よりもずっと上であり、まだまだ朝霞が見たこともないような戦術や霊術を持ち合わせているのだろう。だが、それでも何度も何度も見ているうちにその感動も薄れていくというものだ。  以前、会った時、霧乃は自分の事を単なる陰陽師の端くれと称していた。彼の家自体も民間の法師陰陽師の末裔であると。だが、朝霞はそんな言葉に騙される程、鈍くはない。  彼には何か周りの仲間にすら話していない事実がある。そうでなければ、現陰陽寮の拠点たる京都を守護する金色の蛇――勾陣が式神として彼についていく筈が無い。 ――あいつは一体、何者なんだろーな  その正体を暴いてみたくて仕方がない。知らず知らずのうちに浮かんだ獰猛な笑み。 「ククク、精が出るねぇ。ご苦労ご苦労」  バッと朝霞は振り向いた。声の主は、黒い革のジャケットにデニム、ごっついブーツで部屋に上り込んでいる。どこか野性的な瞳に、ボサボサの茶髪は、よく言ってワイルドだが、多くの人間は柄の悪いという印象を抱く。 「てめっ、火龍……驚かせんなよ」  朝霞は内心で相当びくつきながらも、喧嘩腰に相手を睨んだ。対して火龍は朝霞がどう思ったのかまで見通したかのように笑う。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加