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「ハ、気づけよ。隠形も見破れませんって言ってるようなもんだぜ……ま、それはともかく、お前ってのはすげぇやつだな」
と、火龍は朝霞の恰好を上から下まで視線を這わせ、冷笑を浮かべた。
「折角の千早も水干も、お前が着ると特攻服にしか見えねぇ。ある意味、天才だぜ、お前は」
「んだと、ってめぇ、ぶっころす! ぜったい、ころす!」
腰の太刀に手を掛けるが、その手の更に上に長倉が手を置いた。慣れた手つきだ。そして、火龍の言葉に内心では長倉も同意していた。言えば、隊長に八つ裂きにされかねないので言わないでおくが。
「隊長さんが、そんなにキレやすいとお前らも苦労するよなぁ」
火龍の言葉には、同情と嘲りが一緒くたにされたような響きがあり、長倉はどう返したらいいものかと、考え、結局返す事を諦めた。
「坂上さんよ、一体何の用事だ?」
通り名ではなく苗字で訪ねると、火龍は肩を竦めてその質問を躱した。
「何、面白そうなもんがありそうだと思ったんだよ」
これが単なる問題児の言うことであれば、無視するかお帰り頂く所だが、彼は“ただ”の問題児ではない。一見、何の意味も無いように見えて意味のあることをし、またその逆も多い。長倉にしてみれば、朝霞の方が余程扱いやすいというものだろう。
「ハッ、お生憎様、ここは私らが全部調べたんだから。お前が面白いなんて思うものはなにも、ねーよーだ」
んべっと舌を出す我らが隊長に、長倉も限界かため息を漏らした。……ただ、それでも見捨てないのは、彼女の力を誰よりも信じているからでもある。
「お前らには見えない物が、俺には見える。どこに隠れようとも、俺の目は誤魔化せねえよ」
ただの馬鹿の驕りではない。事実、火龍は“早乙女”の誰にも気づかれる事無く、この場に現れ――油断していたとはいえ――朝霞の背後まで取っている。
これが戦いであれば、長倉は為す術もなく大将の首を取られていただろう。尤も、背後を取られた位で、朝霞が簡単に自分の首を差し出すわけもないのだが。
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