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「おいおい、なんだよ。だったら、なんで私らがここに呼び出されてるわけ? こいつ一人でいいじゃんかよー、たく」
朝霞は我儘で図々しく、自分よりも弱いものには特に居丈高に出るタイプだが、自身の実力が量れない類の馬鹿ではない。
他に適任がいるならば、むしろなぜそいつをつけないのか、陰陽寮の采配が理解出来ないとばかりに愚痴をブツブツと呟くその横で、火龍がふと片足を上げた。
ぎょっと身構える早乙女隊。火龍は構わず足を振り下ろした。何でもないような自然な動作だったが、踵が見事に畳を打ち破っていた。びくっと、さしもの朝霞も度胆を抜かれたように身を引いた。
「な、何やってんの、お前?」
しかし、火龍は答えず自分が空けた穴を見下ろしていた。その穴の中に誰かがいるかのように話しかける。
「隠行、中々上手いじゃねぇか。原身に戻って息を潜めるってのは、式神らしいやり口だ」
えっ、と朝霞は身を乗り出し穴の中を覗き込んだ。畳の下、土埃だらけの床下に神楽鈴が落ちていた。よく見ると鈴は風も無いのにぶるぶると震えていた。
なんだ、こりゃと朝霞は訝しみながら、柄を掴むと鈴は一層強く震え、音を鳴らした。構わず引っ張り上げ、全員に見えるように前に翳した。
「これ、中原影夜の持ち物か? は、こりゃまた大収穫だなぁ」
女が神楽舞を舞う際に用いる神楽鈴、古くは巫女が神楽を舞うことにより神懸かりして人々に神の意志を伝えるために必要なものとされていた。
影夜が、滅んだ山の神霊を引き寄せる霊具の一つとして、この神楽鈴を使った可能性は高かった。
「てか、なんでこれはこんなに震えているわけ? 霊具の誤動作か……?」
興奮した面持ちで疑問を出し、ふと火龍がなんと、言っていたかを思い出す。
「待てよ、式神?」
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