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「だ、誰だ、お前は」
こんな幼い子を足蹴にしてしまったことに、罪悪感を覚えつつも、朝霞は訊ねた。
少女は答えない。
朝霞とは対照的な大きくぱっちりとした瞳が揺らぐ。揺らぎ、そして――
「う、うぅぅぅうわぁあああああああああああああああああああああああああん!!」
泣いた。
直前まで感じさせていた儚さなんてどこへやら。大声が空間を震わせた。共鳴するかのように頭に括り付けられた何十もの鈴が鳴り響き渡る。朝霞達は咄嗟に、耳を塞いだ。鼓膜が破れるかと思う程の大音量だ。木造の屋敷がびりびりと震え、本棚のガラスケースがバリッと嫌な音を立てる。
「おい、五月蠅いぞ、泣くな」
同じくこの災害染みた叫び声を聞いている筈の火龍は顔をしかめただけだ。何を思ったのか、すっと少女の前で足を振り上げる。
それを見た少女の声が止まった。肉食の野獣が目の前に降ってきたかのように、瞳を見開き、ひくっと声を引き攣らせる。火龍は満足げに、上げた足を静かに降ろした。
朝霞はぐらぐらとする頭を抑え、少女を睨み付ける。今度は油断無く動き、部下に手で合図を送る。
「八陣――方円、取り囲め」
部下達は、朝霞の指示にすぐさま従い、取り囲んだ。びくっと少女は身体を震わせ、青ざめた顔で一人一人の顔を見ていく。朝霞の顔からは既に感情が消え失せていた。
「たっく、可愛い顔して、騙されるとこだったぜ」
「ほう、お前みたいながさつな女でも、そんな事思ったりするわけか」
火龍が横から茶々を入れ、朝霞の額に青筋が浮かぶ。だが、それでも奥歯を噛みしめて我慢する。隊の者達も内心で「おっ、うちらの隊長成長した!」と思いつつも、顔には出さない。集中すべきは、目の前の対象。少女の姿をしているからといって、油断したが、先程の叫び声ではっきりとした。こいつは人間ではない。
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