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「藤原家の長女であったな。我々とも縁の深い家だが、知らん者にとっては、俄かには信じられない事よの。時代が時代ならば、この国を牛耳っておった政界の大貴族の子孫の一部が野に下り、陰陽の道を歩んだなどとは」
「いざなぎ流に生まれは関係無い。我が師からはそのように聞きましたが」
面を上げた千星空の目には固い意志が感じられた。
「もしや、山室太夫の事かの。あやつは手厳しかったろう? 儂は奴によっていざなぎ流を追い出されたのじゃ。儂の考えが認められなかったらしくてのぉ。いざなぎ流を学ぶ者は数少なく、狭く、考えも偏りがち。儂の味方になる者はおらんかった」
「先ほどのお話、少しばかり聞かせて頂きました。ぶち壊したいとかなんとか」
その言葉に霧乃はぎくりとしたが顔には出さない。また、千星空も義兄には一瞥もくれない。それがまた不気味でもあった。
「おうともよ。儂は現陰陽寮という組織、彼らが定めし理を壊してみたいと思ったのよ。主はどうかねぇ?」
「そうですね――、時々葛藤することもあります。女一人を殺す事で、成り立つこの世界のありように。また、そうするしかないと断じた古の陰陽寮、そこから繋がり今がある現陰陽寮に疑問を持たない者はただの阿呆でしょう」
とても、年下とはそして十四の少女とは思えない毅然とした態度だった。靄が模った口で笑みを深めるのに対して、千星空は「ただ」と続ける。
「あなたのように、面白半分でそれをぶち壊そうとする者についていく程、この千星空、堕ちてはおりませぬ」
迷いの一切無い、刀の切っ先のように鋭い一言を突きつける。じゃらりと錫杖の金輪が鳴り、霊力が小さな体から呼び起される。
誘は笑った。同時に靄が広がり、茫然とする霧乃の横を通り過ぎて、千星空へと襲い掛かる。
――不味い
そう思ったが、千星空は自分を呑み込もうとする靄を睨み据え、錫杖を打ち鳴らした。
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