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「のう、改めて問う。主もこちらに来ぬかの? 蠱毒の材料としてではなく、正真正銘の同志として、ぞ」
ハッと千星空が視線を投げかけてくるのを霧乃は背で感じ取る。
「主も、壊したいと望んでおるのだろう?」
珍しく、本当に珍しく、霧乃はこの土壇場で迷った。二つの選択肢が霧乃の前に浮かぶ。
このまま同志となるか、それとも――
「俺がこの世界を壊したい――そう望んでいる?」
自らの心に正直な者の清く潔い言葉。一歩を踏み出す霧乃に、千星空は言葉を発する事も出来ずに手を伸ばした。
――よかったな、千星空
「いつ、俺がそんな事言った?」
――俺が卑怯者で
誘は何を言われたのか分からず、穏やかな表情を模した石像のように固まっていた。千星空も同様に、霧乃の言葉についていけていない。
「だからさ、俺がいつ現陰陽寮だの、この世の理だのを壊したいだなんて言った? あれ、言ったけなー?」
「ぬ、主!? ば、馬鹿な、それが望みだったのではないのか!!」
「お爺ちゃんさ」と、霧乃は、孫が欲しがっていた玩具を取り間違えたお爺さんを見るような目つきで呆れた。
「似たような境遇の人間が、自分と同じ考えだと思う癖は止めた方がいいと思うよ?」
瞬間、誘は額に血管が浮き出る程に怒り狂い始めた。
「馬鹿な!! き、貴様、自分に嘘を吐くでない!! あれは、お前の本心でもあった筈よ!!」
「悪いけど、俺は狡い奴なんで、ね。てか、こんなもので本心覗こうなんてのが、そもそも甘過ぎ」
ひらりと霧乃がぞんざいに投げつけたのは人の形に切られた幣だった。あ、と千星空が驚きの声を漏らした。
「人形(ひとかた)ってのは、本来は負の気を移し浄化する霊具。が、これには少々手が加えられていたようだね。負の気に反応し、心に侵入する機能とは中々面白い事考えるよ」
「馬鹿な!? あれは、では私が覗いたあの負に満たされたお前の心は何だったと言うのだ!!」
「だからさー……」と聞き分けの悪い子どもを見るような目で霧乃は呆れた。
「最初からばれてんだよ。あんたの術は。だとしたら、する事は一つ」
――今まで悩んでた事全部、嘘だから
嘲笑を乗せて幣越しに伝える。拒絶するように幣が中程から引き裂かれて燃えた。誘が呪を解いたのだ。
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