5人が本棚に入れています
本棚に追加
「頼むぞ……召喚獣。俺に力を貸してくれ……」
「貧乏臭い。君のような貧民が、二度とこの名門に入学してこないよう、見せしめにしてやるよ」
「貧乏人も、案外悪くはないもんだよ。いろいろ気付かされることが多い」
貧乏人と罵られている男の名前は渡辺亮(わたなべりよう)。選定試験の行われる闘技場にある契約用の召喚印の前で、豪華に着飾った男と対峙していた。
「今度こそ、約束を守って。無事に、なんとか無事に試験を乗り越えて……っ」
「私にあれだけ大見得きったんだから、相応の力を示してくれるんでしょうね……」
そんな亮を、豪華絢爛な閲覧席から見守る二人の女性の視線は、それぞれ思いは違えど、およそ通常なら誰も注目しないような貧乏人に向けられていた。
「僕の方から先に契約させてもらうよ、貧民。――……遥か古より続く名門、坂田家が名において命ずる。我が召喚に応じ、その身をゆだね異界より顕現せよッ!」
自らを坂田と名乗った男が、闘技場に刻まれた契約用の召喚印――通称、契約印を用いて召喚の儀を行った。
坂田の呼びかけに応じるように、契約印に刻まれた五芒星の紋様は紫色の輝きを放ち、召喚に応じた召喚獣を顕現する。
「あれは……鬼かしら?」
坂田と名乗った男が召喚した生物――それは、頭頂に構える立派な角、口から飛び出る二本の鋭利な牙を持つ、身長3メートルにも及びそうな巨大な鬼だった。
「……ふん、一般的な鬼か。戦闘能力はCランクってところだっけ? 初めての召喚ならこんなもんか。鬼は扱い難い気性ではあるが、僕なら問題なく従えられる」
坂田は満足げに契約印から離れ、召喚された鬼を従え闘技場の東側に向け歩き出す。
「さあ、次は君の番だ。早く召喚の儀を行うといい。死ぬ覚悟は、決めてきたんだろう?」
坂田の挑発に眉一つ動かさず、亮は召喚印の中央へ歩みを進め、自ら考えた祝詞を口にした。
「……どこの馬の骨とも知れない一人の人間がここに懇願する。俺の片腕となり、大切な者を守る力となってくれ。汝、我が召喚に応じ――異界より顕現せよッ!」
契約印は色取り取りの激しい光を放ち――やがて亮の泥臭い祝詞に応じた召喚獣が姿を見せた。
「――な、なにあれ……?」
「そんな、ありえないわ……ッ!?」
最初のコメントを投稿しよう!