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「お前、藤木さんと付き合ってんの?」
「壮太。お前おせーよ!」
学校から駅まで向かう帰り道、中学から連んでいる壮太(そうた)の問いに、僕の隣で凛太朗(りんたろう)が上機嫌で答える。
「凛太朗はいいよなー。可愛いよな藤木さん。」
「壮太。かりんは可愛いだけじゃないんだぜ。性格も もう天使!」
「ノロけんなよ。気持ち悪りぃ。」
凛太朗と壮太の会話は今年の入学式で出会ったとは思えないほど親密さを感じさせた。
高校に入学して一ヶ月もすると、彼氏だの彼女だのみんな寄ってたかって浮足をたてる。
彼女欲しいだの。気になるやついないのかだの。二人のやり取りを適当に流してるうちに駅についた。
「お前らも、早く彼女作れよ!」
改札を通ると別れ際に凛太朗が満面の笑みでいった。
「うっせぇ!お前に言われなくても夏休みまでには作ってやるからな!」
「おう…」
凛太朗のおせっかいな言葉に壮太はいつものように食ってかかり、僕はそっけなく返事をした。
凛太朗と別れ、壮太といつもの下りの電車の来るホームへと向かう。
「なあ、龍生(りゅうき)は彼女欲しいか?」
壮太は隣に並んで歩きながら聞いた。
「いいや…まだいらない。」
「そっか、だよな。」
僕の過去を知る壮太だけには本音が言えた。
その後はたわいもない日常のことや漫画などの話をした。
「じゃ、俺バイトだから、
またな。龍生!」
地元の駅に降りると壮太は自転車に乗りながら言った。
「おう。また明日。」
僕がそう言うと、壮太は自転車で薄暗くなった民家の間を通り抜けて行った。
自宅につくと自分の部屋に入り、明日のテストに向け勉強を始めた。
どうしても、僕にとって難関なのが古典だった。
「げっ!明日一発目じゃん。」
一週間前に配布されたテストの時間割をみて、モチベーションは最悪だった。
「うわー。古典が一番目かよ!」
凛太朗はそう言うと、机の上にどんと顔を落とした。
「本当に昔の日本人はこんな言葉しゃべってたのかよ。」
僕も不満をぶちまけた。
「確かに、今じゃ使ってねーつーの。」
壮太の言葉に思わずふっと笑った。
“今日は徹夜だな。”
これまで昼寝の時間として使ってきた古典がここまで僕を苦しめるとは…
正直、ちゃんとやっておけばと思った。
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