産声〜仄暗い地の底より〜

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産声〜仄暗い地の底より〜

                【産道】 コツ……コツ……コツ……コツ………… ヌメヌメしている。地面は固い。 壁に触れる。やはり、湿っている。粘着質な液体。 【それは天井からしみ出し流れ落ちているようだ】 一歩。また一歩、進むたびに乾いた音がする。伝わる感触から、触れる地面は石のようだ。 両腕を横に伸ばしてみる。再び、粘着質な壁に触れる。 力を込める。思いっきり、この暗く淀んだ空間を押し広げるように。 びくともしない。空間は広がらない。それでも押すことをやめない。 鋭利な石壁が手のひらの肉に食い込む。それでも押し続ける。 手のひらの、肉が裂ける。痛みは感じない。少し、腰を落とし下半身に力を込める。 その力を伝達し、両の手のひらに集めるようにして再び壁を押す。 【ぺキィッ!ゴギュッ!グチャッ!グキャッ!】 ……耳障りな音が空間を満たした。構わず再び、少し短くなった両腕で押す。 壁から何やら軋むような感覚が伝わってくる。 グキカグキカギクカングカギクカグガグカ………… 空間全体が軋み始める。否、表現は正確に。 縮み始めている。まるで押される苦痛に耐え兼ねたように、空間が抵抗を始めている。 再び、体から耳障りな音が鳴り始める。それは腕から始まる。次に頭上、同時に足元から。 やがてその音の発生源は、胴体ヘといたりさらに体の中心点へと向かっていき、そして………… 轟音と共に、全てが弾けたんだ。 まばゆいばかりの光と、強烈な熱を孕んだ波動の奔流。 それらが収まった時、空間は再び静寂の闇に包まれた。 …………失敗した。【私】はまた、失敗した。最初からやり直しだ。はじけ飛び、拡散し、目に見えない小さな微粒子と化した【私】の肉体。その一粒の中に残った意識が、再び覚醒を促す。 繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す…………このくそ忌々しい牢獄から自分を解き放つ、その時まで。
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