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『翔太……ヒカリ……』
「迎えに来た」
『……え?』
未だ夢の中にいるような、あやふやな眼差し。自らの死を自覚する間もなく息絶えたのだろう。
その時、寝室の扉が恐々と開き、先程の女が小さな悲鳴を上げる。
『ヒカル! どうして……?』
男は混乱から頭を抱える。無理もない。突然命を奪われたのだから。
それに男の最愛の妻も、間もなく男の後に続くだろう。
「子供なら心配しなくてもいい。彼女が最期まで、一緒にいてくれる」
男は崩れ落ちると、その声は決して届かないというのに女に詫び続けた。そして妻と子を思い、泣き続けた。
母ではない温もりに、子供は火がついたように泣き続ける。
本当は男を殺めようと女は今日という日に、わざわざこの屋敷まで来た。
しかし無垢な存在たる子供の姿に、女は改心したのだ。
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