睡蓮

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「どいつもこいつも、呑気なことばっかしてんじゃねえよ」 蠢く闇を感じながら天合は、煙管の灰を落とす為に長屋の瓦に煙管をかつんと打ち付けながら、溜め息交じりに口角を吊り上げた。 妖達が集って行う百鬼夜行は、さながら派手な大名行列。 狂ったように踊って陽気に歌って、運悪く百鬼夜行の側にいた人を食らう。 世界が滅ぶと噂されてから、妖達は最後に大規模な百鬼夜行を古くからの時代を色濃く残しては多くの妖達が住まう京都でしようと計画を立てていた。 種族が鬼という高貴なものであう天合も知り合いの狢に誘われたものの、どうも百鬼夜行に参加する気分にはなれなくて、こうして屋根の上に座ってそれを眺めるだけに終わっている。 世界が滅ぶまでまだほんの少しの時間は残ってはいるが、きっと天合はあの列には加わりはしないだろう。 天を進む神のように光を撒き散らすのではなく、嫌な灯りを放つ火を撒き散らしている列は、今宵幾らの人の命を呑み込むのか。 「てめえらの生みの親である人を食らうなんぞ、妖も所詮愚か、か」 「そう考えるのはあんただけさぁね」 「いいんだよ。俺は。人も愚かだが、そんな人が結構気に入ってるからな」 空を見上げた。 思い出すのは遥か昔から幾度も差し出された人の手。 天合の異形の美を見ても怯えることなく好奇心を露わにして近寄ってきては、異質なる存在である己を気安く友と呼んだ人の姿。 生まれた時に天から与えられた時間を全うしてもうこの世界に生きていない者が多いが、それでもまだこの時代でも、天合を友と呼ぶ稀有な人は居る。
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