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「人の世はようやく滅ぶらしいぜ」
「そんなの知ってるさ。耳に煩い程聞いてきたからねぇ」
「ぎゃあぎゃあと騒ぎたてんのが、馬鹿な人間様だからな」
くつりと喉を鳴らした天合は、碁盤の目のように家々が並び建つ古都の風景に目を移した。
此処よりも遥か遠い場所に、珍妙な名前の付けられた星が落ちてきたという。
そしてその星は地球の命を貪り食い果たす為に、中心へ中心へと沈み進んでいるという。
知の力を他の生物より優れて持つ人は、それを忙しなく働かせて出した結論が一つ。
地球は、滅ぶ
だった。
その発表が出されそれが真実で逃げようのない未来だと浸透してしまった時、人の世は騒々しさを爆発させる。
人が生んだ騒々しさは人と近しい位置に在る妖に、嫌という程に情報を伝えてきた為、妖の中にも知らぬ者はきっといない。
知ってはいるが、人のように大袈裟に騒いでいないだけだ。
「見ろよ。八百万神の奴等は人の世が滅ぶまで、歌い躍り明かすみてえだぜ」
「それも知ってるさ。ほんと、どれもこれも騒ぐのが好きさぁねぇ」
「ちげえね。どうやらてめえは騒がねえ派みてえだな」
「変わり者のあんたと一緒さね。群れるのはあたしの性に合わないのさ」
屋根の上に胡座をかいて座る、天合。
そこから五メートル程の距離を空けた電柱の先に立つ、建春門院。
二人は揃って、頭上を見上げた。
広がるのは月と星が輝き雲が流れ、黒に塗り潰した闇色の空だが、人ではない彼等妖には、同様人ではない彼等の姿がしっかりと見えている。
楽器を奏でながら陽気に躍り列を成し、夜行をしている幾多の姿が。
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