睡蓮

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人の世では大名行列のようなものか。 妖の間では百鬼夜行のようなものか。 ならば彼等の間では、八百万神の間では、その名を取って八百万神夜行か。 夜空を切り裂くように光を纏い溢れさせ、鐘や三味線等の楽器の音を奏でながら。 椿の君が歩けば、空は虹色の花畑になりまする 天照の君が歩けば、空は喜んで輝く涙を流しまする 祠や神木は船の中、私たちは海に沈みませぬ 陽気な歌声を乗せる。 色とりどりの衣装をきらびやかに揺らしながら躍り進むその列を、ここ数日の夜の間目にしてきた。 どうやら八百万神達は、人の世が……否。人の住むこの星が滅び無くなってしまうまでの数日間、歌い躍り明かすと決めたらしい。 そして最終的には 「奴等は住処を手放して、眠っちまうみてえだな」 歌の一節にあるように、己等に必要なものだけを船に乗せ、己等も船に乗り込み、今まで暮らし住んでいた世から離れ眠りにつくようだ。 気ままな神らしいと、天合は肩を竦め小さく笑った。 「人が全部滅びちまえば、てめえらも消えちまうだろうってのにな」 「それは薄々八百万共は分かってるさ。神は人の信仰がなけりゃぁ、存在する意味が無いからねぇ」 「分かってんなら人の世を救えばいいんじゃねえか?」 「神の力及ばぬのが、自然の脅威さ」 「けっ。自然に負けて笑いながら逃げんのかよ。薄情なこってえ」 滅びを突きつけられた人は、恐怖に染まり狂った者もいる。 その中には神を信じ崇めて、信仰を糧にする神にとっては失ってはならぬ人もいただろう。 脅威を突きつけられたことによって、神に頼み神を望み、信仰を厚くする人もいただろう。 神として在るべき理由を作ってくれる人を、自然の脅威には打ち勝てぬと諦め、歌い躍り陽気に己等だけは船に乗り眠りにつこうとする列が、天合には馬鹿馬鹿しくも薄情に見えた。
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