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天合等妖にとっては、神は疎む存在であり、人は愚かだと見下す存在。
神の列を眺めながら馬鹿にし薄情に見たが、しかし……。
「まぁ、なんとなく……奴等の気持ちは分かるがよ」
ぽつりと呟いた内心。
「奴等の気持ち、とは?」
「見たくねえんだろう。てめえらの存在を生んでくれ、存在するのを維持する糧をやる人様が壊れて滅んでしまうのをよ」
人は愚か故に信じるものを持つ。
神は信じられるが故に守る対象を持つ。
人と神は互いに互いを必要としていて、互いに互いを大事に思っている事だろう。
無くしてはならぬ互いの存在だからこそ、どちらか一方が消えてしまう様を見るに堪えなくて、想像するだけでもきっと悲しく辛すぎて、だから神は眠りについてその姿から目を背けようとしているのだろう。
自由気ままな神の考えは妖である天合の考えとはもしかしたら到底違うものかもしれないが、天合にはそう思えて見えて仕方なかった。
歌は悲しさを紛らわせる為だ。
舞いは苦しさを忘れる為だ。
「人が脆けりゃあ、人が生んだ神も脆いってもんだ」
人と神は、儚く脆い。
再び口に付けた煙管から吸った煙を空に向かい吐いた天合の姿を眺めていた建春門院は、愉快そうにからりと笑った。
「相も変わらず、あんたは変わり者さぁねぇ」
「はっ。変わり者の俺を笑うてめえも十分変わり者じゃねえか」
「それでいいさ。あたしも、十分脆くなってしまったからねぇ」
妖は闇に潜み時に人を襲う、人や神に忌み嫌われてきた存在。
脆さを知らない化け物だと思われがちだが、それは勝手に人が作り思い込んだ想像でしかないようだ。
苦笑を浮かべながら手を胸に当てて、神が歌い踊る空とは違った方角に向けた目は深い悲哀と慈愛を混ぜていて、眉を垂れたその面持ちは、触ってしまえば消えて無くなりそうだった。
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