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「あの子が不憫で仕方ないさね」
「てめえが囲ってる盲目の餓鬼か?」
「囲ってないさ。あたしはただ、あの子が一人になりたくないと言うから、傍に居るだけ」
烏天狗程の名の知れた妖が人を傍に居させるだけでも十分囲ってると言えるだろうが、なんて悪態をつこうとしたが、建春門院があまりにも柔らかく笑んだから、吐き出しかけた言葉は呑み込んだ。
建春門院とは何百年も前からの付き合いだが、こんな顔は初めて見る。
気ままな猫のようにふらりと唐突に天合の前に現れては、まるで自慢するかのようにつらつらと語ってくる建春門院。
その語りはいつだって同じ人物についてだから、付き合いの長い天合はもう嫌という程に知っている。
建春門院が傍に居るだけと言っている、盲目の子供、を。
「人は闇を怯え嫌う。あの子はその闇にずぅっと視界を奪われたまま。一人じゃなにもできないあの子を、血を分けた親は捨てちまったのさ」
「嫌ってえぐらいに聞いてきたわ。でっけえ石が落ちてきて、てめえらだけでも生き延びる為に、足手まといの餓鬼は捨てたんだろ?」
「そうさ。人は愚かさね」
「そんな愚かな人の傍に居んのは誰だか」
人を愚かだと言う。
しかしそんな愚かな人の傍にいるのはどうしてか。
建春門院の矛盾してるかの言い様に、天合は鼻で笑った。
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