睡蓮

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天合に己の事を鼻で笑われたことによって頬を少しだけ膨らましむくれてしまった建春門院だが、しかしふと思い至ったかのように顔を上げては、どことなく勝ち誇った顔をした。 「あんたもあたしと同じだろうが」 言ってやった。 建春門院を愚かだと言った天合に己と同じだとすれば、その言葉の意味はお前も愚かだということ。 相手にお前も同じだと突き付けられた天合は普通はむっと少々の怒りを抱くところだろうが、天合は数度目を瞬かせたと思うと、くはっと息を吐いて膝を軽く叩きながら笑い出したではないか。 「妖も人様が産んだ産物だ。てことは愚かな人様同様愚かだわな」 神は人の信仰する感情を。 妖は人の負の感情を。 感情は正反対だが、それでも己達の存在が確かにるのは人の感情があるからこそ、だ。 妖とは、人が何かに恐怖する感情や妬みや恨み辛みという負のものから生まれ、その負の感情をもとにして居る存在。 だから、生みの親でもある人を愚かだと言うなれば、子である妖も愚かなのだと、天合は思う。 そういった変わった考え方をしているが故に、妖の中でも変わり者と呼ばれるのだろうが。 「切っても切れねえ糸があるから、人様を馬鹿にする妖の中でも変わり者はいるんだろうが」 「違いないさね。そういえば、あの狐はどうしてるんだか」 「ああ。二藍天狐の奴か?」 二人の脳裏に浮かんだのは、己等と同じように変わり者の仲間に入るとされる、美しい銀の毛並みを持った狐の妖の事。 死者に逢いたい、その願いを叶え続けていることを生業のようにしている天狐の事。 天合等が狐に会ったのはもう遥か昔の事だが、記憶に薄れず鮮明に、狐の姿は焼き付いている。
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