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家の周りは、田んぼと玉ねぎの畑だけ。
しかしこの季節は、ただの白い雪原となってしまっている。
その真っ白な雪原の隅に、黄色くてふわふわな動物の姿を見つけた。
「あっ!ママ!
あそこにキツネがいる!!」
雪に覆われた畑の真ん中を指差すと、ママは車の陰から顔を出して視線を向けた。
あれはきっと、『キタキツネ』だ。
この前パパが教えてくれたけど、雪が積もった今の時期は、山や森にご飯が少ないんだって。
だからこうやって、僕たちが住んでいる人間の街にも、時々動物たちがこうして姿を見せる。
「パパの言ってた通り、ご飯を捜しに来たんだね。
ねぇ、僕のお弁当、半分分けてあげていい?」
そう言って畑の真ん中にいるキツネに近付こうとした時、背後からコートの襟ぐりを引っ張られ、僕の動きは止められてしまった。
振り返ると、そこには恐い顔をしたママ。
そしてママは呆れたような口調で、こう僕を諭した。
「近付いちゃダメよ。
キタキツネは、『エキノコックス』っていう恐い病気を持ってるの。
それに、お弁当を半分あげるなんて・・・。
いつもお弁当が足りないって言って帰ってくるんだから、半分もあげたらもっと足りなくなっちゃうでしょ?」
そう言われて、僕はキタキツネにお弁当を分けてあげる事を諦めた。
再度雪原に目をやると、そこにはもうキタキツネの姿はなくなっていた。
そして僕は、ママに促されるまま車に乗り、市街地にある幼稚園へと向かった。
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