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「はい、お終い。
・・・優心君、この絵本好きなの?」
絵本を読み聞かせ、どうしてこの絵本を選んだのかを彼に尋ねる。
すると彼は、ニッコリと笑い、今朝自分が見た事を私に説明してくれた。
「今日の朝ね、僕の家の近くにキツネさんがいたんだよ。
雪の畑の中で寒そうにしてたけど、すごく可愛かったんだ。」
そうか。
今朝彼は、キツネを見たんだ。
だからそれに関連する『キツネ』の本を選んだ。
そう理由を説明した後、彼は私に、質問を投げ掛ける。
「ねぇ、笑美先生。
この絵本には雨の日に結婚式をするって書いてるけど、雪の日には何をしてたのかな?」
雪の日・・・。
そうだ、今朝もまた、雪が降っていたんだ。
何のフィルターもない、真っ直ぐで素朴な子どもの疑問。
その疑問に、私は気の利いた回答をできるのだろうか。
幼稚園教諭として、この地球の未来を担う彼らに伝えたい事・・・。
本当は、もう未来なんてないのかもしれない。
だけど、教諭である私が諦めちゃ、それが子どもたちにも伝わってしまう。
真っ直ぐな彼の眼差しから目を背けず、必死に良案を考える。
今日の彼は、制服姿だ。
そして、制服を着ている日は・・・。
「もしかしたら、神様だったのかもよ?」
「えっ・・・?」
私の回答に、優心君は首を傾げる。
そんな彼に、私の回答の真意をわかりやすく説明する。
「優心君のお家の近くには、春になったら黄色い菜の花が咲くでしょ?
きっとその色を借りて、白いキツネの神様が人間の世界の様子を見に来てたのかもしれない。
神様や仏様ってね、ちゃんと信じる人のところにしか来ないの。
だから優心君が、ちゃんと信じてくれてるかどうか見に来たんじゃないかな?」
例え希望が薄くとも、この世にもし『神』という存在があるのなら・・・。
真っ直ぐで純粋な子どもの未来を、きっと消滅させたりはしないだろう。
大人の私はそれを信じきれなくても、純粋なままの彼らならきっと信じる事ができるはずだ。
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