45人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、ソール。迷ってない?」
ぎくり。
「そ、そんなことないぞ。まだそんなに時間も経ってないし、きっとすぐにでも着く……」
「昨日、そう言って森の中で一晩野宿したんだけど?」
「あ、あれは……その……」
うん。絶賛遭難中だ、俺達。
だけども、それを認めたら負けた気がするので、俺は執念深く前へ進む。
森の中というのは、さしてかわらないように見えていて、遭難するのも頷ける。
「さすがに、今日こそ森のローレライに会ってみたいけどね」
「てか、それが森に来た目的だろ。町長さんに、依頼料前払いされちゃってるし」
もちろん、町長さんに頼まれずとも、森には用があって立ち寄りはするんだが……。
「ん?アミル、あそこ」
「何?……わ、でっかいね」
前方に、湖を見つけた。アミルの言うとおり、かなり大きい。俺達は早速湖に近付いた。
湖はその大きさにもかかわらず、一片の濁りもなく、青く透明に澄んでいた。
「森のローレライって、ここに出るのかな?」
「可能性は高いかもな。正体が分かったら町長さんに伝えないといけないな」
「そー《ヒュンッ》……え?」
アミルが何か言おうとしたのと、俺の目の前を刃が横切って行ったのはほぼ同時だった。
「だ、誰だっ!?」
周りの気配を探りながら叫ぶと、俺達から少し離れた場所から何かが現れた。
「誰だはオレの台詞だ。またこの近くに住む奴か?噂を当てに来るのもいい加減にしろ」
多少の怒りを含んだ声の主は、ずんずんと俺達の方に近付いて来る。
「え、あれ?子供……?」
アミルが戸惑っていたが、それは無理もないと俺も思った。
声の主は、見るからに俺達より年下の少年だったからだ。黒いマントと帽子が、異様な雰囲気を漂わせてはいるが。
「見た目はお前らより下かもしれないが、オレはお前らの十倍くらいは生きてるぞ」
「はあ?」
何を訳の分からないことを……。
「……ルトルム君?何をしてるんですか?」
「あ……。アクア?」
奥の方の茂みから、また人が現れた。俺とアミルはそっちを見て、言葉を失った。
白い着物に羽衣を身に纏っていて、まさに天女と呼んで差し障りのない女性だった。何か着崩れてるけど。
「え。アクア、どうして今ここに」
「こちらが騒がしい気がしましたので……。ええと……そこのお二方、私の家に来ます……?」
いきなり出てきた人のいきなりな発言に、俺とアミルは思わず頷いていた。
最初のコメントを投稿しよう!