二章

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水が跳ねる音がしたと思えば、イメルガさんが湖に落ちた。いや、落ちたと言うよりは飛び込んだの方が的確か。 透明度の高いこの湖は、底の方までよく見える。イメルガさんが湖の中を漂う様に泳いでいるのが見えた。 「分かったか?これが、外の連中が言う、森のローレライの正体だ」 「イメルガさんが……」 「勘違いしないでほしいが、これの被害者は、皆一様にアクアの姿に見惚れた阿呆が足を滑らせて湖に落ちた奴だからな」 確かに町長さんは森のローレライで被害者が出たとか言っていたが……そういうことか。 「まったく……この湖に落ちられて穢れが出たら、その穢れはオレが回収するんだからな……」 「?」 理解に苦しんでいると、ルトルムは一度溜め息を吐いてから教えてくれた。 「この湖は、アクアの魔力そのものと言っても過言ではない。アクアの魔力が、水に変換されて浸透している。アクアはこのことをよく知らないみたいだが、好んで行くのは魔力同士が同調するからだ。ただし、水が穢れるとその分魔力も穢れてしまう。しかもその穢れは、アクアの身体や精神にも影響を与える」 ふ、と息を吐いて、ルトルムは湖を見下ろした。 「だからオレがその穢れを取り除いてるんだよ。オレに害は無いが、アクアに何かあったら困るからな」 ルトルムの視線につられて湖を見れば、ちょうどイメルガさんが湖からあがるところだ。 「さて、と。戻るぞ……って」 「あれ?アミル?」 ルトルムと俺が振り返ると、そこには誰もいない。アミルが、いなくなっていた。 帰り道で、木々と蔦に絡まっているアミルを発見した。何をしているんだと問えば、イメルガさん家に剣を忘れてどうしようもなかったらしい。……なにしてんだ。 アミルを回収してイメルガさん家に戻ると、数分経たない内にイメルガさんも帰ってきた。 「ルトルム君、ただいま」 「おかえり」 イメルガさんは、湖からあがってそのまま帰ってきたようで、髪や服がびしょ濡れのままだった。 だがルトルムのリアクションから察するに、いつものことのようだ。 「……ソール」 「な、なに?」 アミルの方を見れば、怒っているような咎めるような視線で射抜かれた。 ……え、俺なんかした?
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