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「ルトルム君」
「ん。アクア、あがったか」
イメルガさんが、湯気を纏うようにして、俺達の前にやってきた。
「ソール君とアミルさんは、今夜泊まって行かれますか?」
「というか逆に、泊まって行かない訳がないだろう?」
質問をイメルガさんに投げかけられた……かと思えば、ルトルムに決定事項扱いをされていた。
イメルガさんは俺達の話を聞かないまま「そうですよね。当然泊まって行かれますよね」などと言いながら、さっさと奥へと消えて行った。
「……泊まって行くんだろう?普通、こんな夜更けにわざわざ野宿しに出はしない」
「いや……うん。まぁ頼めるなら頼みたかったが、うん……」
なんか腑に落ちない承諾をされてて、ちょっともやもやする。
アミルも同感のようで、首を傾げて苦笑いをしていた。
イメルガさんの計らいで、俺はルトルムの、アミルはイメルガさんの部屋で、一晩泊めてもらうことになった。
アミルが風呂に入っている間、俺は用意してもらった寝床で荷物整理をしていた。
「…………」
《ガサガサ》
「…………」
《ゴソゴソ》
「…………」
《ガサガサ……コトンッ》
「……えっと、何か用か?」
真正面で仁王立ちをして俺を見るルトルムに、俺は手を止めて少し引き気味に聞いてみる。
「用が無ければいけないか?」
「え、ないのか?」
てっきり、あるからずっと俺を見ているのかと思った。って、待て待て。じゃあ何故見ている。
「いや、あるが」
あるのかよ。さっきまでの数分間と今の応答、完全に時間の無駄だっただろ。
そう言ったところで、ルトルムは意に介さないだろうから、俺は小さな溜め息を吐くだけに留めておいた。
「それで、何の用だ?」
「お前ら、イーグニスとフォルティアだと言っただろう?」
ルトルムはどこか楽しそうに、言葉尻を弾ませながらそう聞いてきた。
「そう、だけど」
「……ということは、だ。また魔王が動き出したんだろう?なあ、そうだろう?」
詰め寄ってくるルトルムに、なんとなく奇妙な感覚を覚えつつも、俺は「あぁ、そうだよ」と軽く頷く。
俺の返答を聞いたルトルムは、少し興奮気味に「そうだろうそうだろう……!」と言って、口の端を歪ませた。
魔王が動き出したことが、そんなに嬉しいことなのかと聞こうとしたけれど、アミルが風呂から上がったことを言いに来たので、俺は聞くことができなかった。
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