三章

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「あなたのお名前は、何というのですか?」 「人に名前を訊ねる時は、まず自分から名乗るべきだと思うのだけれども」 アミルとこそこそ喋っていたら、いつの間にやらイメルガさんが少女と会話をしていた。 少女とはいえ、ナイフを持っている相手に対する緊張感のなさには感服だよイメルガさん。 「あぁ、それもそうですね。私はイメルガ・アクア、と申します」 「アクア?水の一族か……」 「ええ、そうです。それで……あなたのお名前は?」 少女の自己紹介に、俺とアミルは口を揃えて驚きつつも納得することになる。 「ボクはラクルム・アステラ。アクアと同じ、勇者側近の地の一族だ。ついでに言わせてもらえば、これでも百は生きてるよ」 「「アステラ一族か!」」 「そうだよ。なにか問題でもあるのかい?」 じろりと睨まれ、俺とアミルは苦笑いをする。 イメルガさんはというと、「そうですか!」と手を合わせて微笑んで続けた。 「私、あなたがルトルム君に似てるなぁと思ったんです」 ああー、ルトルムに似てるのか。見た目と中身がそぐわないとことか、一族的なとことか。 ルトルム。という単語を聞いた瞬間、少女……改めラクルムはとてつもなく嫌そうな、苦々しい顔をした。 「どうしたんですか?」 苦虫を噛み潰して、充分に咀嚼して味わってしまったような顔をしたラクルムに、イメルガさんは心配そうに問う。 「ルトルム、は……とてつもなく不本意なんだけれど……ボクの兄様だよ」 ナイフの柄をぎっと握り締め、絞り出すような声でそう言った。 兄様……兄…………兄妹!? 「そうでしたか、兄妹なんですね」 「ボクはその事実がなくなればいいと、切実に思ってるよ」 はあ、と大きな溜め息を吐いたラクルムは、ずっと握っていたナイフをポイッと投げる。 宙に放り出されたナイフは、地面に落ちる前に土塊となってその形を失った。 とりあえず、ラクルムも加えてフィーデスへと向かうことにした俺達だった。
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