三章

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「ところで、そこの二人は自己紹介とかないのかい?」 遠回しに自己紹介しろと言われたような気分だ。いやするけどさ、自己紹介。タイミングがなかっただけだし。 「私はアミル・フォルティア」 「俺はソール・イーグニス」 「フォルティアにイーグニス……光と火の一族か。光の一族が動き出したということは、久々に魔王軍が動き出したようだね」 久々。となると、ラクルムはおおよそ百年ほど生きているらしいから、そこから推測して百年内には似たようなことがあったと。 頭の中でごちゃごちゃと考えていると、アミルが呆れたように俺に言う。 「前回魔王軍が動き出したのは、約八十二年前よ」 これくらい常識でしょう。なんて言われたら、何も言い返せない。イメルガさんもラクルムも微妙な雰囲気で俺を見る。 数分ほどいたたまれない空気に包まれた後、なんとラクルムに助け舟を出された。 「ところで、どこに向かっているんだい?まさか、フィーデスとは……言わないよね?」 「いや、フィーデスだけど」 「…………そう、かい」 微妙に嫌そうな顔をしたラクルムに、俺達は首を傾げたが、「なんでもないよ」で押し切られた。 「別にフィーデスはいいのだけれど、長くてあと三日は歩くと思うよ?」 そして告げられた現実に、俺はちょっと気が滅入る。長時間歩くのは、まあ慣れてない訳じゃない……けど疲れるものは疲れるんだよ。アミルもイメルガさんも、ラクルムだって同じだろうけども! それからフィーデスに到着したのは、二日とちょっと経った頃だった。 「わあ!すごい!」 「大きな街ですね……!」 街に入るやいなや、アミルとイメルガさんは二人してはしゃいでいた。いやいや二人とも、これから宿を探さなきゃいけないんだけど。 「あ、イーグニス。宿ならあそこを推奨するよ。値段の割にいいところなんだ」 「そ、か。じゃあ、そこにしよう。アミル、イメルガさん、置いてくよー」 ラクルムを先頭に、俺達はラクルムおすすめの宿屋に向かう。 ……あれ、おすすめって、ラクルムはここに来たことあるのか。ああ、百年も生きてればそりゃ行くか。 表通りを少し外れたところに、その宿はあった。 フィーデスに着いてから、心なしかラクルムの足取りが重いように見えるのは、俺の勘違いとかじゃないはず。 「……失礼するよ」 ガラリと引き戸を開けて、ラクルムは中に入る。俺達もそれに倣う。
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