一章

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「やっと着いた……」 「まずは宿を探さなきゃね」 そう言って辺りを見渡すアミルと俺に、遠くから人が来て、いきなり話しかけてきた。 「あの、旅のお方ですよね?」 「え、えぇ……そうですけど」 アミルの返答を聞いたその人は、目を輝かせてアミルの手を掴んだ。 「ぜひ、わたしの家へ来てください!」 「えっ?あの……私達、宿を……」 「お願いです。どうかわたしの話を聞いていただきたい!」 一心不乱にアミルの手を引くその人と、勢いに戸惑うアミル。俺はアミルに耳打ちをする。 「アミル、とりあえず行こうよ。多分……断れない」 「……そうね」 もっともだと思ったのか、がっくりとうなだれたアミルを、その人は嬉々として連れて行った。俺はそんな二人の後ろについて行く。 話ってなんだろう? 「あっ……申し遅れました。私、この町の町長をさせていただいている、ウェルと申します」 「町長さんなんですか」 今俺達は、町長さんの自宅に通され、お茶をご馳走になっている。小さな花が入っているこのお茶は、ここの名産品なんだとか。 「それで……あの、ウェル町長。どうして私達を呼んだんですか?」 アミルがそう問えば、町長さんは少しだけ表情を曇らせて、教えてくれた。 「森のローレライの正体を、探ってきていただきたいのです」 「「森のローレライ?」」 アミルと二人して、同じ言葉を町長さんに聞き返す。 俺達の勢いに気圧されたのか、町長さんは、慌て気味に補足説明をする。 「ここから北西に少し行ったところに、森があるのです。その森には大きな湖があり、そこにローレライが住んでいるという噂なのです」 「えぇと……何故、私達に頼むのでしょうか。町の方で、調査員を出せば済むのでは……」 「それは……この町で、森のローレライによる被害者が出たからなんです」 「被害者?」 思わず聞き返すと、町長さんは「はい」と言って続けた。 「死者は出ておりませんが、町の皆は怖がって森に近付きもしなくなりました。なので、旅の方々に頼むしかないのです」 お願いします!と頭を下げた町長さんに、俺とアミルは顔を見合わせる。 被害者がいるとなると、あまり放っておいてよいものではないのだろう。 「あ、あの……分かりました。お引き受けします」 アミルがおずおずと言えば、町長さんは「ありがとうございます!」と大きな声で返してきた。……そして握手を求められるアミル。
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