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二つの薬包紙の上にそれぞれ置かれている粉の山。
俺は濡れ布巾によって濡れた左手薬指を片方の山に少し付け、指に付いてきた薬を軽く舐める。
……ん? なんでだ?
内心首を傾げつつ、まさかと思いながらとりあえずもう片方の山の薬にも口を付ける。
しかしやはりそのまさかとなり、俺は心の中で傾げた首の角度を深くした。
……やっぱりおかしいな。俺は別に材料に細工をしたわけじゃないんだが……。
「キオウさん、まさか別の材料を使ったりはしていないよな?」
「してない。
秤を使って分量もきっちり測った」
薬研車を前後に動かしながら視線を秤に一瞬向ける少女。
その様子からして嘘を付いているようには見えない。
というか、そもそも量を間違えたとしてもこの結果は〝ありえない〟。
材料からしてそれほど強い効果を出さない、その代わり副作用の無い漢方薬で言う上品の材料達だ。
しかし、この薬からは明らかに下品、いや、もしかしたら下品以上の〝刺激〟がある。
これは〝じっさま〟が一回味あわせてくれたものよりも明らかに〝効能〟が……ちょっと待て、この味……。
「……むぅ、この草細かくしにくい。
ダイチ、これ……ダイチ?」
「……ん? ああ、どうした?」
少々ぼぅっとしていたようで、キオウさんの呼びかけで気づいて顔を上げる。
だが視界に入ったその顔は今日まで見たことのない……そう、何かを心配するような表情を浮かべていた。
一体何がそんな顔をさせるのか、俺にはとんと分からずそのまま彼女を見ていると、彼女は椅子から降りて歩み寄り、まるで腫れ物を触ろうとでもするような手つきで俺の頬へ手を伸ばしてくる。
俺は特に避けるようなことはせず、そのままこの小さな手が頬へ触れることを受け入れる。
視界に入れるだけで触れれば壊れると案じてしまうその手。
もちろんそんなことは起きず、俺の頬はその確かな温みと柔らかみを感受する。
「……どうした?」
「……泣きそうな顔……してたから」
……泣く? 俺が?
鬼の少女がポツリと呟くように紡がれたそれは、俺にとって少々的外れなモノだと思った。
けれど何故か、底から否定する気にはなれなかった。
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