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俺が絵を描く為に画材道具を持ちながら河原を散歩していると
急に何処からか声をかけられた
「ヒヨリさん」
振り返った先に座りこんでいたのは
河原の草の上に膝を丸めて座り込む紫色の長い髪の女の子
虚ろなエメラルドグリーンの瞳は
すぐ目の前を流れる川をぼうっと見つめている
俺は何も言わず彼女の隣にあぐらをかいた
「何も言わないんですね
軽口を言うわけでもなく
嘘を吐くわけでもなく」
こちらを見ようともしない、男性嫌いな彼女は
いつものように刺々しい言葉を投げかけることもなく
ただ思ったことを素直に言っているように思えた
「今日は哀ちゃんの話を聞いてあげるデーだから」
「嘘ですね」
「えっ」
ただの軽口というか
でも嘘は吐いてないはずなのに
哀ちゃんはハッキリと断言した
「ヒヨリさんは馬鹿ですから
落ち込んでたら何時でも話を聞くでしょう」
「……」
「今日は大丈夫です
思うところたくさんありましたけど
『あたし』という人間が何だったのか、それもわからないうちに
うだうだしててもキリがないって気づきました
とても時間を無駄にした気がします」
哀ちゃんはフラリと立ち上がった
「痩せた?」
「冗談やめてください
夏目さんのおかげで日々増加してます」
「またね」
「……はい」
哀ちゃんはフラフラとした足取りで
河原から去っていった
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