646人が本棚に入れています
本棚に追加
.
社会の流れから取り残されたように、
わたしはそれから、2日間を部屋に閉じこもりきりで過ごした。
しかし3日目ともなった今日、
どうしても外へ出なくてはいけない事情により、
こうして今、制服に着替えている。
高校の制服、と言っても、今日は土曜日だから学校じゃない。
これから松木家へ向かい、紗耶のお葬式に参列するためだった。
大切なお友達を見送ることだから──
と、お母さんに説得されての事だったけど、
正直わたしは、あまり行きたくはない。
紗耶がいなくなったという事実を、少しずつ受け入れつつあるはずなのに、
改めて外界から見せつけられることが、やっぱり怖いのだ。
とは言っても、クラス全員が参列するのに、紗耶と一番仲が良かったわたしが欠席という訳にもいかないんだろう。
お母さんから渡された香典をバックに入れて、ノロノロと這い出した家の外。
抜けるような春の青空は、わたしを圧し潰すように眩しかった。
すれ違う人の流れは、駅に近づくほど増えてゆき、
その中のどこからか、紗耶がひょっこり現れるような気がしてくる。
それは多分、あのラーメン屋とか、あのゲームセンターだとか、あの歩道橋だとか、
この通りのそこかしこに、紗耶との思い出が残ってるからなんだろう。
揺られる電車の車窓からは、田植えを終えたばかりの緑の絨毯。
土手に映える菜の花の向こうで、
山々は溢れかえるような若葉色に萌えている。
あらゆる命が輝き始めたこんな景色には、きっと紗耶の笑顔が良く似合う。
学校近くの、いつものホームを通過する時思ったんだ。
最後にここで見た紗耶の表情は、本当に輝きに満ちた春みたいだったって。
なのに、満面の笑顔で手を振ってきたバイバイが、
まさか永遠のお別れのバイバイになるだなんて……
ねぇ…どうして?
もう何度となく問いかけ続けた問いに答えたのは、
間延びした声の車内アナウンスだった。
『えぇ~次はぁ、八堀ぃ、八堀ぃ~。
お下りの際はぁ~、お忘れものにぃ~ご注意くださぁ~い』
どんなに手を伸ばしても、もう届かないわたしの忘れ物を残して、
電車は紗耶の町へと到着する。
.
最初のコメントを投稿しよう!