第3話・『相棒』

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. 紗耶がマンション暮らしだったため、お葬式が祭儀場だったことには救われたと思う。 自宅だと、あまりにも紗耶の幻影が残りすぎていて、なおさら悲しくなってしまうから。 祭儀場前の駐車場には、すでに沢山の喪服姿が訪れており、 その中に我が校の制服を着た集団を見つけた。 担任の曽根先生と、2年A組のクラスメートたち。 こちらに気づいた美奈達が、手招きで合流を促し、 おずおずと歩み寄るわたしを、曽根先生が頷きながら迎え入れる。 いつもの教室の賑わいとは違い、しんみりとした空気が漂う中、さっそく泣いてる女子も何人かいた。 常にうるさい男子のグループでさえ、流石に今日は畏まっている様子だった。 お葬式は、粛々と行われた。 涙を堪えながら、裏がえった声でマイクに向かう紗耶のおじさん。 おばさんは…すっかり憔悴しきっていて、見るに耐えない。 お坊さんのお経を耳に流しながら、遺影の中で笑う紗耶を、ただじっと見つめていた。 それは単なる薄っぺらい二次元で、わたしが祈りを送るべき対象の気がしない。 それなら三次元はどうか? お棺の窓を開け、そこから見た紗耶の顔も、やっぱり紗耶に似た何かとしか思えなかった。 松木紗耶という個人の印象を形づくった、あの躍動感というものが全く感じられないからかもしれない。 だとしたら、紗耶はどこへ行ったのか? 今度のテニスの大会で、優勝してやると意気込んでた情熱は── 福祉の仕事につきたいと語っていたあの夢は── 紗耶の想いの全ては、いったいどこへ消えてしまったんだろうか? いや、人の想いって、そもそも本当に消えてしまうものなのだろうか? もしわたしが死んだなら、今思っているこの気持ちも、無くなってしまう? それはなんだか不思議で、考えれば考えるほど、想像の範疇(はんちゅう)に及ばないこと。 今のわたしにとっては、『どりんくば~』に残る【すぴん】のブログやコメントだけが、 唯一あの子の想いを存在させ、留めている場所のように思えた。 「なんだ梅田、足痺れたのか? ほら、行くぞ?」 曽根先生に肩を叩かれ、我に返った時には、いつの間にかお葬式は終わっており、 参列者達がゾロゾロと席を立ち始めていた。 .
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