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紗耶がマンション暮らしだったため、お葬式が祭儀場だったことには救われたと思う。
自宅だと、あまりにも紗耶の幻影が残りすぎていて、なおさら悲しくなってしまうから。
祭儀場前の駐車場には、すでに沢山の喪服姿が訪れており、
その中に我が校の制服を着た集団を見つけた。
担任の曽根先生と、2年A組のクラスメートたち。
こちらに気づいた美奈達が、手招きで合流を促し、
おずおずと歩み寄るわたしを、曽根先生が頷きながら迎え入れる。
いつもの教室の賑わいとは違い、しんみりとした空気が漂う中、さっそく泣いてる女子も何人かいた。
常にうるさい男子のグループでさえ、流石に今日は畏まっている様子だった。
お葬式は、粛々と行われた。
涙を堪えながら、裏がえった声でマイクに向かう紗耶のおじさん。
おばさんは…すっかり憔悴しきっていて、見るに耐えない。
お坊さんのお経を耳に流しながら、遺影の中で笑う紗耶を、ただじっと見つめていた。
それは単なる薄っぺらい二次元で、わたしが祈りを送るべき対象の気がしない。
それなら三次元はどうか?
お棺の窓を開け、そこから見た紗耶の顔も、やっぱり紗耶に似た何かとしか思えなかった。
松木紗耶という個人の印象を形づくった、あの躍動感というものが全く感じられないからかもしれない。
だとしたら、紗耶はどこへ行ったのか?
今度のテニスの大会で、優勝してやると意気込んでた情熱は──
福祉の仕事につきたいと語っていたあの夢は──
紗耶の想いの全ては、いったいどこへ消えてしまったんだろうか?
いや、人の想いって、そもそも本当に消えてしまうものなのだろうか?
もしわたしが死んだなら、今思っているこの気持ちも、無くなってしまう?
それはなんだか不思議で、考えれば考えるほど、想像の範疇(はんちゅう)に及ばないこと。
今のわたしにとっては、『どりんくば~』に残る【すぴん】のブログやコメントだけが、
唯一あの子の想いを存在させ、留めている場所のように思えた。
「なんだ梅田、足痺れたのか?
ほら、行くぞ?」
曽根先生に肩を叩かれ、我に返った時には、いつの間にかお葬式は終わっており、
参列者達がゾロゾロと席を立ち始めていた。
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