第3話・『相棒』

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. 焼香の香りが厳粛さを充満させる場所。 そこから一歩外へ出ると、のどかな陽光の下に春風がさわめく場所。 こんな儀式ひとつで“区切り”などつくはずもない、日常の延長世界への逆戻りだった。 すぐに美奈達がわたしの回りに集まってきて、口々に慰めやら励ましやらをかけてくる。 大丈夫だよ── そう答えたわたしの笑顔は、本当に大丈夫な表情だったろうか? お葬式を終えてみれば、涙ぐむ級友がだいぶ多くなっており、美奈もその中の1人だった。 互いの痛みを舐めあいたいのか、美奈はまだまだわたしと話し込みたい様子。 けれどもわたしは、美奈には悪いけど、早く1人になりたかった。 そのため、そそくさとみんなを交わすようにしながら、 誰よりも早く帰路の駅へと向かったんだけど… 祭儀場を出て少し歩いたところで、 後ろから猛ダッシュで駆け寄ってくる足音があった。 振り向かなくてもだいたい察しはつく。 その怒涛の勢いを持つ追っ手から、今さら逃げても無駄だろう。 振り向いた後ろには、案の定、想定どおりの小柄な男子が立ってた。 何かと格好つけたがる同年代の男子の中で、唯一この人だけは、隠しもしない涙と鼻水を垂れ流している。 「う…梅田さん…… 俺……松木さんが自殺したなんて…どうしても信じられないよ…」 背が低い上、中1ぐらいにしか見えない童顔の彼に、こうして泣かれるとわたしは弱い。 ついつい弟でもあやすような気持ちで、ポケットティシュを取り出し、その手に渡していた。 「佐倉くん、鼻水、口に入ってるよ?」 佐倉くんは勢い良くブビッ!とやり、袖口で涙を拭ったけど、すぐにまた顔中がぐしゃぐしゃになってしまう。 「梅田さん…なんで? 松木さん…なんで自殺なんか……うぅっ…」 紗耶と親しかったわたしなら、その動機に心当たりがあると思ったんだろう。 嘘偽りのない、心から彼女の死を嘆いている涙。 本当に、子供みたいに純真な人なんだ。 だからこそわたしは、春休みに佐倉くんから告白された時、 その無垢な心を傷つけることに罪悪感を感じてしまった。 ──とりあえずお友達から── なんて台詞、 彼にとっては、逃げ口上にも聞こえないんだろうな。 「佐倉くん、この近くに公園あるけど…行く?」 「うん…」 .
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