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その児童公園は、よく紗耶と一緒に、遅くまでだべっていた場所だった。
住宅街の一画にポツンとある、植林で囲まれた空間。
シーソーやブランコなどの遊具がこじんまりと配置されており、
地元の創作家が建造したらしい、訳の分からないモニュメントもあった。
美奈との会話さえ避けたわたしが、なんで佐倉くんをここへ誘ったのか?
それは、自分よりも悲しみを露わとする彼に、少しだけ心を許したからかもしれない。
すっかり悲劇のヒロインになりきっていたわたしの前に、
もうひとりの大悲劇役者が現れた。
それは何となく、独りじゃないという安心感でもあったような気がする。
佐倉くんと2人並んで腰掛ける、丸太のベンチ。
いつもは紗耶が座っているはずのその位置に、鼻水を啜る男子がいる微妙な違和感。
何はともあれ、わたしは佐倉くんに、紗耶の自殺の動機なんか思い当たらないこと。
そして、駅で見た青い髪の男のこと。
『どりんくば~』での、最後の紗耶の書き込みのことなどを語ってきかせた。
「絶対その青い髪の男だよっ!
そいつが松木さんを自殺に追い込んだんだよっ!」
声を荒げて力説する佐倉くんは、ようやくわたしにできた味方のような気がする。
考えてみれば、紗耶の事についてこんなにいろいろ話せたのも彼が初めてだ。
「ところで佐倉くんて、わたしより『どりんくば~』歴長いよね?
顔がこんなふうに歪んじゃうアバターアイテムって、見たことある?」
これもまた、ずっと胸に引っかかっていた異物で、やっと誰かに吐き出せたこと。
佐倉くんはわたしの携帯に映る【すぴん】のアバターに見入ってから、
こんな事を言い出した。
「あっ、これ。
何年か前に一回だけ見たことあるよ。
ごく普通の女の子だったのに、なんで急にこんな変なアイテムつけたんだろうって不思議に思った」
「やっぱりこれアバターアイテムなの?
おかしいな、わたしアイテム全種類、隅から隅まで調べてみたけど、そう言うの見つからなかったんだよね」
「え、そうなの?
アバターアイテムじゃないとしたら、なんなのこれ?」
「ねぇ佐倉くん、その女の子って、まだ『どりんくば~』にいる?」
「いやぁ…それがその子、その後すぐ退会しちゃって……」
そこまで話したところで、佐倉くんはハッとしたように顔を上げた。
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